河野政権は日本経済自爆への道である

有馬 純

9月29日の自民党総裁選に向け、岸田文雄氏、高市早苗氏、河野太郎氏、野田聖子氏(立候補順)が出そろった。

石破氏・小泉氏と会談する河野氏 河野太郎氏@自民党総裁選Twitterより

主要メディアの報道では河野太郎氏がリードしているとされているが、長らくエネルギー温暖化政策に関与してきた身からすれば、世上取りざたされる河野太郎首相、小泉進次郎官房長官の組み合わせは悪夢としか言いようがない。河野・小泉政権が実現すれば、日本経済、日本産業が塗炭の苦しみを味わうことになることは確実である。

河野氏は総裁選出馬に際し、「産業界も安心できる現実的なエネルギー政策を追求する」、「当面は安全の確認された原発は使っていく」と述べている。これをもって河野氏が長年の持論である「脱原発」を封印したとの見方もあるが、彼のこれまでの言動や周辺にいる人々の顔ぶれを考えれば、河野氏の「封印」を真に受けている人はほとんどいないのではないか。

本質的に反原発の河野政権が誕生すれば、原子力規制委員会はこれまで以上に規制機関としての効率性を無視した制限的運用を行い、原発再稼動はますます遅れることになるだろう。

2030年46%目標を実現するために、不可欠な要素である原発比率20-22%を実現するために、河野首相・小泉官房長官が政治的指導力を発揮するとはとても思えない。その結果、20-22%の実現が不可能になれば(というよりも、それが狙いなのだろう)、46%目標達成のために再エネ目標36-38%を更に上積みすることになる。メディアに流れた資エ庁幹部への恫喝音声の中で彼が主張した「36-38%以上」が実現するというわけだ。

また河野氏は原発再稼動を容認するポーズをとりつつ、「高速増殖炉が廃炉になり、使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出す必要がなくなったのだから、再処理施設はやめるべきだ」と核燃料サイクルを否定している。

これは奈良林直東工大特任教授が指摘するとおり、各地の原発で保管されている使用済み核燃料を六ヶ所村の再処理施設で再処理できなくなれば、いずれ各原発の使用済み核燃料プールが満杯になり、原発が運転停止に追い込まれることになる。「裏口からの脱原発戦略」といってよい。

河野氏と小泉氏に色濃く見られるのは反原発原理主義、再エネ原理主義、温暖化防止原理主義の三段重ねである。野心的な温暖化目標を掲げつつ、原発と再エネを二者択一でとらえ、原発を再エネで置き換え、再エネ100%を目指するというエネルギーセキュリティ、温暖化防止、経済効率いずれの面で見ても不合理な考え方である。米国民主党の最左派バーニー・サンダース上院議員やアレクサンドラ・オカシオ=コルテス下院議員と似通っている。

小泉氏はエネルギー基本計画の見直しを主張する高市早苗氏に強く反発し、「原発を最大限増やして脱炭素を達成したいと思うのか、再エネを最優先・最大限に導入して達成したいと思うのか。この対立構図だと思う。私は再エネを最優先・最大限で達成することが日本の将来だ。国を愛する者として歴史的な命題であるエネルギーの安全保障を確立したい」と述べているが、これこそ原発と再エネの二者択一的発想そのものである。

現在、日本のエネルギー政策を論ずる人の中で「原発があれば再エネはいらない」という人は皆無であるが、「再エネで原発を代替し、ゆくゆくは再エネ100%」という論者は河野・小泉両氏を含め、あまりにも多い。

私は「まさに国を愛し、エネルギーの安全保障を確立する」ためにこそ、河野・小泉両氏に国の舵取りを任してはならないと考える。

河野・小泉政権の下では太陽光、風力を中心に再エネ導入拡大が進められるだろう。それにより山林伐採が進み、再エネ補助コストはますます膨らむ。

エネルギー基本計画案では再エネ36-38%でも再エネ賦課金の金額は6兆円近くに拡大すると試算されているが、それどころではなくなる。しかもこれには変動性再エネの拡大に伴う統合費用が算入されていないので、実際のコストは10兆円を超えることになるだろう。

池田信夫氏が指摘しているように「再エネは安い」と主張する河野氏は変動性再エネの拡大に伴う統合コストの拡大を理解していない。ただでさえ主要国中最も高い日本の電力料金は大きく上昇し、日本の製造業の産業競争力、賃金、雇用を蝕むだろう。

しかも河野氏は変動性再エネの拡大による電力需給バランスの喪失を防ぐための容量市場を廃止すべきであると主張している。こうした安全弁を伴わずに「再エネ100%」を目指して変動性再エネを増やせば、カリフォルニアやテキサスで生じたような大停電を招く可能性が高い。

変動性再エネ偏重は、気象条件によって再エネ発電が不十分な場合のエネルギー価格急騰を招く。現在、欧州で天然ガス価格が急騰しているが、これは再エネを偏重し、石炭火力を排除した結果である。河野・小泉政権下での日本の将来を見る思いである。

最後に、彼らの目指す施策は中国製パネル、蓄電池、風車の輸入増大を招き、日本が培ってきた国産原子力技術を立ち枯れさせ、日本にとっての脅威である中国を利するのみであることを肝に銘ずるべきである。河野政権の誕生を最も歓迎するのは中国であろう。

河野氏の新著は「日本を前に進める」であるが、河野・小泉政権が誕生すれば日本は間違いなく前に進むだろう。

ただし繁栄ではなく、自爆に向って、である。

エネルギーは経済の血液であり、国家安全保障の基礎である。自民党の国会議員、党員・党友の方々には自分たちの一票が日本の浮沈を左右するという自覚を強く期待したい。