中国は19日、害虫が何度か見つかった台湾の釈迦頭(しゃかとう)と蓮霧(レンブ)の輸入を20日から一時停止すると発表した。同じ理由でこの3月にも収穫期に入るパイナップルが禁輸になった。台湾政府農業委員会の陳吉仲主任委員は「国際基準に合致せず、受け入れられない」とし、「WTOへの提訴」も辞さない姿勢を示した(台北中央社)。
折しもこの17日に中国が「環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)」への参加を正式に申請したタイミングだけに、筆者はこの報道を興味深く読んだ。現地の報道で両者の言い分を見てみよう。
台湾の陳主任委員の言い分を要約すれば以下の様だ。
農産物貿易での検疫条件は、双方の協議とルール作りで合意されるべきだが、中国は3月のパイナップルでも今回の釈迦頭と蓮霧でも、客観的な証拠のない書面のみで、今日通知して明日禁止するという不意打ちの輸入禁止している上、台湾からの協議要請も無視していて、国際的な貿易規範に反する。
今回、中国が通知してきたアジアに広く分布する「Pacific rump psyllid(キジラミ)」は、特定の国の特定の品目を直接禁止するのではなく、臭化メタンで燻蒸した後に出荷を解除するのが普通だ。外部寄生虫で果実の内部に侵入することはなく拡散能力も低い。これを理由に他国への果物の輸出を禁止しているのは中国だけだ。
輸入検疫は科学的な問題であり、政治的な問題ではない。中国は、国際社会の一員として国際規範を遵守し、我が国の協議要請に一刻も早く応じてほしい。9月末までに問題解決のための回答を求める。さもなければ10月1日にWTOに提訴する。
一方、中国側の言い分は19日の環球時報にある。
台湾産の釈迦頭と蓮霧から今年に入って数回カイガラムシ(planococcus minor)が検出されたので、中国税関は月曜日から輸入を停止する。この害虫が定着すると、果物産業全体に深刻な損害を与える可能性がある。今回の決定は大陸の農業生産と生態系の安全を守るためだ。
米国がワシントンの台湾公館の名称を「台湾代表部」に変更することを検討している、と米メディアが報じた数日後に禁輸が行われたので、経済的な警告ではないかという憶測を呼びやすいが、実際には通常のバイオセーフティの予防措置だ。
だがこの記事は表向きであって、名物編集長胡錫進は次のような趣旨を述べる。
もし大陸と台湾の関係が良好なら、多くの大陸人は、害虫が含まれているかも知れない台湾の果物を大陸が購入しても大きな問題とは思わないだろう。だが、分離独立した民進党政権がワシントンの飼い犬になろうとしている今、大陸が台湾の汚染された果物を買う理由はない。
かつて台湾製品は大陸市場でよく売れていたが、その競争力は年々低下している。台湾当局が巨大な大陸市場で台湾製品のシェアを維持しようとするなら、良好な両岸関係を築くことが有効であることは間違いない。が、残念ながら、現在の民進党政権の分離主義的な政策は、台湾製品を大陸の人々にとって魅力のないものにし続けるだろう。
こちらが北京の本音だろう。ところが台湾世論が中国批判一色かといえば必ずしもそうでない辺りが、目下の台湾の政治経済情勢を物語る。本件を発表し、農家の権利を守るため10億台湾ドル(40億円弱)を用意するとした農業委員会サイトの読者コメントを読むとそれが実感できる。
- また始まった!ビジネスには利益と損失がある!農業委員会はこんなことをして誰を助けるのか?
- そのたびに農業委員会は「許せない!」と言うだけ。
- 中国の作戦の政治的な意味は、青と緑を皆殺しにすること。権力を持っている緑だけでなく、青が権力を持っても台湾を狙っていることを既に伝えている。
- 台湾海峡の向こう側が政治的に対立し、併合したいと思っていることを知っていながら、リスクを分散させない農家に、なぜ我々の税金で補助金を出さなければならないのか。
- 台湾は既に米国側にいる。 台湾の果物はどれも大陸で作っているものばかり。 農協関係者の憤りは言葉だけ。
- 台湾には内需があるのに、なぜ向こうに輸出しなければならないのか、本当に不思議。
- このような補助金が、果たして農家の方々の現実的な助けになるの? 農業委員会の職員の皆さん 脳みそを目覚めさせて。
- また道徳的な誘拐の時期が来たのか? 良いものが売れなくなった時だけ、台湾人に買ってもらうのですか?
- 中国本土はもう買わない。台湾から釈迦頭や蓮霧を買った方が安いのでしょうか?そうは思えない、中国が買う理由は何ですか?
- 経済部はかつて、「我々は中国に依存していないが、中国は台湾に依存している」と言っていた。
- 中国農業が我々に依存しなくなり、敵の絡みから解放された今、我々は安心して共に祝うべきだ。農家への補助金も、国際社会への抗議活動もいかがなものか。
- 釈迦頭と蓮霧を日本に輸出して。在日台湾人も台湾大好き日本人も、台湾の果物を楽しみにしていますよ。
- 蔡総統、ECFAと「三通」の中止し、中国をボイコットしてください。
- 9割が外に流れてしまい、品質の悪い高価な1割だけが台湾人の食卓に残る。
- 自国の果物を買って食べる余裕がない。
- 簡単に言えば小さなビジネスは禁止だが、大きなビジネスは禁止しないということ。 フォックスコンやTSMCを切り離したいとは言っていない。
- 貧しい中国人は自国の腐った果物しか食べられない。
- 台湾はお返しに中国への台湾製チップの販売を禁止して、中国経済をさらに悪化させるべきだ。
- 彼らの農産物の台湾への持ち込みを禁止すべき。
- 農業委員会は、害虫が付着した果物の検査報告書の公開を要求しているの?
- 相手がいじめっ子やチンピラだとわかっているのに、なぜ相手に果物を売るのか。
- 生産が余ったり、売れ行きが悪くなるたびに、中国を問題にして投機を行い、国産果物を高値で応援してもらう、これは不名誉なマーケティングだ。
- 民進党が政権を取り役人が沢山いる。米国のせいでWTOが停止しているのを知らないのか? これは職務怠慢なのか、それとも意図的に農家を騙そうとしているのか。
- 大陸は15年の法改正以降、燻蒸の受け入れを中止しているが、まだ無意味なことを言っているね。
- 自社製品に問題があるのに、なぜみんなからお金を取って補助金を出さなければならないのか。
- 中国には頼らないと言っていたはずだが。
ここには書いてないが、蔡政権の矜持が問われる記事もある。6月にマンゴーとライチにミカンコバエの幼虫が発見され、ニュージーランドが輸入禁止にした際、陳主任が「輸入国の対応を尊重する」と受け入れたのに、二重基準だというのだ。
記事を読んだ限りのことだが、果肉を食害する農業害虫のミカンコバエと、果実の内部に侵入することはなく拡散能力も低いらしいキジラミやカイガラムシは危険性が異なるような気もするが・・・。
さて、大陸は釈迦頭と蓮霧の重要な輸出先で、昨年の大陸向け釈迦頭は約1.4万t、蓮霧は4800t(うち3700tが屏東産)で、総生産量の釈迦頭は23%、蓮霧は10%を占める。筆者は台湾在勤中、両方ともよく食べた。釈迦頭は見た目不気味だが、甘酸っぱいジェラートの様で慣れれば美味しい。蓮霧はサックリとした口当たり、味はあっさりしたリンゴとでも言おうか。
日本には冷凍釈迦頭が輸入されているが、蓮霧は果皮が傷み易くて輸出には不向きらしく、パイナップルの時のようには応援できそうにない。が、読者コメント(当然、五毛もいる?)も賛否両論だし、台湾の国内需要で凌げそうな量なので、余り大騒ぎせずともよいのではなかろうか。