蔡英文、習近平が仕掛けたパイナップル戦争に一週間でケリを付ける

高橋 克己

2月26日8時43分の環球時報は「本土はバイオセーフティの問題で台湾パイナップルを禁止する(Mainland bans Taiwan pineapple from March over biosafety issue)」との見出しの署名記事で、台湾パイナップルの輸入を3月1日から禁止することを報じた。

台湾のパイナップル農場(elwynn1130/iStock)

記事の冒頭の原文は次のようだ。

Chinese mainland’s latest import ban on pineapples from Taiwan will hit the island’s pineapple industry hard, which highly depends on the mainland market, said industry insiders from both sides of the Taiwan Straits reached by the Global Times on Friday.(環球時報が接触した両岸業界の関係者は金曜日(*26日)、中国本土による台湾産パイナップルの最新の輸入禁止は、本土市場に大きく依存しているその島(*台湾)のパイナップル産業に大きな打撃を与えるだろう、と語った。)

環球時報が中国共産党の機関紙「人民日報」の傘下にあることを考えれば、この突然の禁輸が「台湾に打撃を与える」との政治的意図で行われたと知れる。だが、習近平によるこの悪質なイジメは、一週間も経たないうちに蔡英文の圧勝に終わった。台湾人の一致団結を民主主義国民が支えたからだ。

Global Panorama/flickr、台湾総統府HPより:編集部

台湾産は芯まで美味しいので、筆者も台湾在勤中に70元(約250円)のカットパインを求め、目の前で皮を剥いてもらった。今回は台湾の知人を介し40kg注文し、4月2週に届くよう手配した。ネット通販を見ると1,000/kgほどで、筆者は少し安く買えたが、それでもフィリピン産の2~3倍と少々高い。

高雄で農業機械の輸入商社を営むその知人は、仕事柄台湾の農業事情に詳しいので少し取材してみた。普段は米の選別機械などを全島の農協を中心に営業しているが、目下は台湾のパイナップルの4割を占める屏東(蔡英文の母方の出身地)近辺のパイナップル生産会社に洗浄機をPR中という。

さて、環球時報の続報を見てみよう。中国の農業評議会の統計によると、中国は台湾から20年に41,661トン、金額で約15億台湾ドル(5390万ドル)のパイナップルを輸入した。それは台湾のパイナップル輸出全体の91パーセントを占めたものの、中国の市場全体ではほんの一部だそうだ。

19年に中国が生産したパイナップル172万トンは、同年に台湾から輸入した51,112トンの33倍。主要産地である海南島のパイナップル卸業者は、本土のほとんどの卸業者が、ここ2~3年で、台湾からの輸入パイナップルから地元の生産者からの果物の購入に移行したと述べた、と報じている。

つまり、中国産を優先するために、「20年以降、台湾からのパイナップルから検疫害虫が頻繁に検出された」ことを口実にして、「本土税関が3月1日から台湾からのパイナップルの輸入を停止」した、と自白したも同然だ。なお、台湾当局はパイナップルの検疫合格率を99.79%としている。

10日の台湾「中央社が、87年以降、「台農17号」を含むパイナップル4種、ライチ1種、茶7種の中国への流出が確認され、マンゴーやレンブン、インドナツメなども中国に持ち出され栽培されているとみられる、と報じているので、海南島のパイナップルも「台農17号」と見るのが妥当だろう。

そこで台湾のパイナップル事情。各種報道に依れば、台湾のパイナップル生産量は年間40万トン前後、9割が国内消費だ。残る1割程度が輸出でその97%が中国本土向けだから、中国以外は1,000トン余りに過ぎない。最も一般的な品種「台農17号」は、98年に台湾の農業試験所が開発した。

最近は「台農23号」というマンゴー風味の新品種も人気だそうで、筆者も17号と23号を半々にした。価格は同じだった。屏東では「石頭地」と呼ばれる石ころだらけの畑で栽培される。トマトや苺も同様だが、肥料や水遣りを減らすほど甘みが増すという。それを、完熟を待って収穫するのだそうだ。

中国向けも日本向けも「台農17号」が主力だが、中国向けは燻蒸で殺虫し、日本向けは水で洗浄する。当然一個ずつ水で洗浄する方が何倍も手間暇が掛かる。しかも日本向けは、上部の葉(トサカというらしい)を切り揃え、根も残らないように切り取る。これは沖縄の出荷基準に準じているそうだ。

一方、中国向けはといえば、一度に大量に処理できる燻蒸で虫を殺し、トサカもそのままで出荷する。燻蒸は味が落ちるらしいが、大きければ良いそうだ。従来は、虫が見付かって苦情が来れば金銭補償で済んでいたとは如何にも中国らしい。

輸入禁止が発効した翌日(2日)の「高雄中央社」は、「台湾産パイン、4万トン超受注=中国への年間輸出量に相当、日本向け増」との見出し記事を報じた。

それによれば、企業や個人から7,187トン、加工業者19社から15,000トン、飲料業者14社から4,500トンの注文が入り、海外輸出も5,000トンを超える見通しという。日本向けは、20年に2,171トンだったものが、すでに3,500トンが確定済みで、5,000トン突破も見込める勢いと。

とすれば、例年中国に輸出していた40,000~50,000トンに相当する数量は、台湾島内の需要増と日本を中心とする輸出の増加で賄える見通し立ったということ。しかも日本向けは、数量こそ中国向けの十分の一だが付加価値は高そうだ(これも相変わらず日本らしい)。

農産物の輸入調整を悪用した中国による外国イジメは、新型コロナの起源調査を主張した豪州からの牛肉、大麦、ワインが知られる。が、これらも(また農産品に限らず)台湾産パイナップルの例に倣えば、自国民の一致団結と国際社会の支援によって十分克服できる可能性があると証明された。

パイナップル戦争で習近平は蔡英文にあっという間に完敗した。国際社会はこれを奇貨として中国に横車を押し戻すことが、世界の平和につながると肝に銘じるべきだろう。