基準地価からみる不動産展望

不動産の仕事を35年やっていると動物的勘が育まれます。ただし、私がわかるのは東京とバンクーバーだけで他の地域は一般の方と同じレベルです。何が違うのか、といえば長くその地に接していることで街の息遣いがわかるのです。不動産も生き物なんですね。「このエリア、だいぶ歳を取ったな」とか「若返っている!」というようなことは肌で感じることができます。このような感性は数字ではすぐに表れないのですがさほど外さないものです。

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さて、基準地価が発表になりました。はっきり言えることは住宅地の地価はとてもしっかりしていることです。三大都市圏の住宅地は昨年比変わらずとなり、前年のマイナス0.3%から改善しています。一方、商業地は繁華街を中心に調整が続いています。三大都市圏の商業地の値上がりは昨年のプラス0.7%からプラス0.1%と減速しています。また都内に限って言えばマイナス0.3%で9年ぶりの下落です。

商業地の行方、これについて少し展望を考えてみます。日本のターミナル駅の開発の基準は商業施設という切り口の一辺倒でした。東京でいえばかつて有楽町で映画(ないし日劇)をみて銀座に行くというパタンがありました。だけどパンダを見て精養軒という話はあまり聞きません。他のターミナルはほとんどがオフィスビルと商業施設のコンビネーションなのです。ズバリ、これは廃れます。

まず、わざわざ都心の地価が高いオフィスに来る業種や社員が絞られます。出勤する人が減れば繁華街も苦しくなります。大してうまくもない居酒屋で腕まくりしてビールを飲むのは昭和のノスタルジー。デパートも絶滅種だけれど高齢者が一生懸命「友の会」で支えています。デパートのエスカレーターが異様にスピードが遅いのも高齢者に合わせて優しい設計です。しかし私は階段を使わせてもらいます。では若者はどこに行くか、といえば池袋、新大久保、渋谷、秋葉原あたりでエリアに「属」した「族」化しています。

ショッピングという観点からすればサブシティである横浜、立川、大宮、船橋、千葉、北千住あたりが十分に育ってきており同じ店がどこにでもあるため、わざわざ都心に来る必要がないのです。とすれば人流を変える新たな計画はないのか、ですが、私が思う山手線の駅では唯一、池袋が大変貌する点を挙げておきます。

なぜ、池袋なのか、といえば西武線、東武線沿線をはじめ、埼玉西南部にサブシティがないのです。また、豊島区として文化芸術の拡充を一押ししているからでターミナル駅開発では誰もやっていないテーマ性があります。旧区役所跡地にハレザがオープンしましたが、この街は他のターミナル駅に比べ全体的に開発が遅れていたこともあり、開発余地が高い唯一のエリアなのです。

何がこの街をつまらなくさせているかといえば駅東西にある西武と東武という二大デパートが巨大な壁のように建築されていることです。これが実にダサく醜い。(新宿西口もそうですね。)そのため、東武のある西口は東武デパートを含めた大規模開発が展開されます。丸井もなくなります。今までの立教大学と酔っ払いおっさんのアンマッチな感じは大変貌するはずです。

飲み屋が多い新橋、神田も変わるでしょう。先日も述べたように日本には飲食店が多すぎるのです。特にサラリーマン向けの店が多すぎます。私は半分にしてもまだ多いとみています。それら繁華街が今後、昼間の顔を持つエリアに代えていくというのが東京都が打ち出すべく都市計画の方向性でしょう。

では住宅地はどうか、といえば高層マンション開発が進むことで戸建て用地の入手がしやすくなるサイクルが進みます。世代替わりの時代に入り、高齢化や相続で手放す不動産が継続的に出ますのでマンションより広い戸建て需要も引き続き堅調になるとみています。あとは東京都が住環境で魅力ある街づくりに踏み込むべきだと思います。ランドバンク方式で都が大きめの用地を確保し、公園や公共施設を拡充する、また歩きやすい街並を形成することが今後10年の課題になるでしょう。

東京都はいつまでも殿様商売できないはずです。近いうちに本格的な人口流出が起きますが、「やばい!」と思ってからでは遅いのです。今からどう都市再生を図るのか、小池さんの手腕、見せてもらいましょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年9月22日の記事より転載させていただきました。