画期的な米英の豪への原潜技術移転:日本も原潜導入を急げ

画期的な原潜技術移転

米国は、9月15日、米英豪3か国の安全保障の枠組み「AUKUS」に基づき、英国と連携して豪州へ原子力潜水艦の技術移転をすると発表した。これにより豪州は現行のディーゼル型潜水艦6隻に代わり、新たに原子力潜水艦8隻を導入することになる。

原潜は、ディーゼル型潜水艦に比べ、艦内の喚気のため海面に浮上する必要がなく、数か月に及ぶ長距離潜航が可能である。また、ディーゼル型より早く航行でき、海上から位置を特定されにくい。これにより、南シナ海を含む広範な海域で哨戒活動が可能になる。

今回、豪州政府の、仏国とのディーゼル型潜水艦12隻の建造契約を破棄してまで原潜導入を目指す判断からは、中国の海洋進出への強い警戒がうかがえる。中国は南シナ海の軍事拠点化のみならず、豪州が自らの裏庭と認識してきたソロモン諸島など南太平洋への進出を強めているからである。米英にとっても、豪州の原潜導入は、南シナ海などにおける対中国の「航行の自由作戦」を補強し、対中抑止力を強化するものとして画期的であり、歓迎すべきことである。日本政府もこれを歓迎している。

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米国のフロノイ元国防次官は昨年10月米国の外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」において、「米国が72時間以内に南シナ海のすべての中国軍艦、潜水艦、商船を沈没させると信じさせる脅威を与える力があれば、中国の指導者は台湾に対する封鎖や侵攻を始める前に再考するだろう。」と主張した。

豪州がこの海域で原子力潜水艦を展開すれば、このような効果も十分に期待できよう。とりわけ、原子力潜水艦は、後記の通り、軍事的に見て、数か月に及ぶ長距離潜航が可能であることや、対艦ミサイル攻撃や魚雷攻撃など、その攻撃力が相手国の空母や艦船にとって深刻な脅威だからである。

海洋進出を強める中国政府の衝撃

今回の米英による豪への画期的な原潜技術移転に対して、海洋進出を強める中国政府は衝撃を受け、早速「核の輸出だ」などと強く反発している。

米国防総省発表2020年報告書によれば、中国は潜水艦を60隻保有し、うち少なくとも10隻が攻撃型原潜である。海洋進出を強める中国は今後も攻撃型原潜の飛躍的増強を図るであろう。

ちなみに、米国は原潜を68隻保有し、うち19隻が攻撃型原潜である。英国は原潜6隻、仏国は原潜10隻である。日本は潜水艦21隻を保有するが、すべてディーゼル型であり、韓国も18隻のディーゼル型を保有している。

中国政府は、今回の豪への原潜技術移転が、中国による南シナ海における人工島建設、軍事基地化など、フィリピンとの常設仲裁裁判所判決に違反し、南シナ海や東シナ海をはじめとする国際法無視の強引な海洋進出や海洋覇権に対するリアクションであることを認識すべきである。

「自主国防」の韓国も原潜導入を目指す

米国が原潜の建造に必要な原子力関連技術を他国に移転するのは、1958年に英国に移転して以来63年ぶりである。

今回、米国が原子力潜水艦建造技術を豪州に移転する背景としては、地政学的に海洋国家である豪州による中国けん制の意思と能力を高く評価し、且つ、長期にわたる強固な信頼関係があるからであろう。ちなみに、韓国政府は昨年9月米国に対し原潜の建造に必要な核燃料の提供を求めたが拒否されている(9月17日付け「朝鮮日報」参照)。

かねてより、米中対立から距離を置く韓国の文政権は、「核の傘」を含め、安全保障を米国に依存しない「自主国防」政策を進め、軽空母や原潜の導入を目指している。9月15日には潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験に成功している。これは米ロ中英仏印に次ぐ世界で7番目の実績である。北朝鮮も当然原潜の導入を目指しているであろう。

原潜の優れた長距離潜航能力と攻撃力

原子力潜水艦は、動力が原子力であるため核燃料を一度装填すると半永久的に潜航して任務を継続できる。数か月に及ぶ長距離潜航が可能であり、原子力により海水を蒸発させて真水を作り、海水を電気分解して酸素も作れるから、艦内の喚気の必要がない。水と電力を無限に使用できるから、乗組員は快適な環境で長期間生活できる。

これに対して、動力としてのディーゼルエンジンとその動力を補佐する蓄電池(バッテリー)を積んでいるディーゼル型潜水艦では、定期的に艦内を換気し、蓄電池を充電する必要があるため、その都度海面に浮上する必要があり、敵に発見され攻撃を受ける危険性がある。さらに、ディーゼル型に比べ、原潜は動力が強く高速で機動力があるうえに、船体も大きいから対艦ミサイルや魚雷を多く搭載でき攻撃能力に優れている。

したがって、潜水艦としての性能は、ディーゼル型潜水艦よりも明らかに原子力潜水艦が優れているのである。

「対中抑止力」強化のため日本も原潜導入を急げ

前記の通り、日本はディーゼル型潜水艦を21隻保有しているが、原子力潜水艦は皆無である。ディーゼル型潜水艦は、前記の通り、原潜に比べ、潜航距離が短く、自力で水や電力や酸素を作れず、喚気や充電のために定期的に海面に浮上しなければならない弱点がある。また原潜より速度が遅く機動力も劣る。

したがって、今後も予想される、中国による力による現状変更の試みや、南シナ海の「内海化」、台湾侵攻、尖閣諸島奪取を含む東シナ海、西太平洋への一層の覇権主義的な海洋進出などを考えれば、日本にとって、数か月に及ぶ長距離潜航が可能であり、且つ、攻撃力にも優れた原潜は必要不可欠であるから、「対中抑止力」の強化のためにその導入を急ぐべきである。

日本の原潜導入は、海洋進出を強め尖閣諸島や沖縄本島を狙う中国にとって障害であり衝撃となろう。石破茂元防衛大臣も2008年原潜の保有を論文で主張した。最高裁砂川事件大法廷判決は、「憲法9条は侵略戦争を放棄したものであり、わが国固有の自衛権及び自衛のための措置は何ら否定してない。」(最大判昭34・12・16刑集13・13・3225参照)と明確に判示しており、原潜の導入は、侵略戦争のためではなく、まさに、自衛すなわち日本防衛のための「抑止力」の強化に他ならないから憲法9条には違反しない。

日本政府は原潜導入に向け米国政府との交渉を開始すべきである。