空回りする金融財政政策
自民党総裁選の4候補はいずれも、「経済を成長軌道に戻すのが先で、成長あっての財政再建」の考えです。アベノミクスが経済成長をもたらさず、出口の見えない金融財政の悪化を招いたことへの検証も反省もありません。
安倍前首相が20年春に「空前絶後の規模。世界最大の経済対策」と言い出し、21年度に30兆円の財政出動をしました。アベノミクスの8年間で、潜在成長率は上がらず1%程度で、停滞から抜け出していません。
停滞というより、日本経済は1%成長するのが精一杯の時代に入ってしまい、いくら財政金融政策で後押ししようとしても、効果はでない。
それにもかかわらず、無理な財政拡大策を重ね、異次元金融緩和がそれを可能にしてきました。財政状態は主要国で最悪です。高市氏は「サナエノミクス」を掲げ、アベノミクスの延長戦をやりたいようです。
4候補の主張を聞いていると、「選挙が民主主義を弱体化させている」との危惧の念を強くします。選挙は本来、民主主義を支える最も重要な装置であるにかかわらず、逆の作用が働いているとしか思えない。
「税金による最低保障年金を創設」(河野氏)、「数十兆円規模の経済対策」(岸田氏)です。公明党までも衆院選の公約として「18歳以下に一律10万円給付」(山口代表)を発表しました。
財源を示していません。コロナ危機が支配する景気情勢のもとでは、国債発行しかありません。日銀が事実上、引き受けるしかありません。出口どころか、新たな迷路に入り込んでしまうのか。
米国FRB(中央銀行)は「金融の量的緩和の縮小(購入する米国債の削減)を11月にも決める」と表明しました。欧州も緩和縮小の方向です。日本は追随どころか逆コースを走るつもりでしょうか。
6月末の個人金融資産は6月末、1992兆円(6%増)、うち現金・預金は1072兆円(4%増)で過去最高を更新しました。財政拡大、金融緩和で流れ出たカネが結局、豊かな所得層、資産保有層に流れついているのです。
米国でも株高で富裕層を中心に資産価値が膨張しています。日米欧では、財政拡大と金融緩和のもとで、中低所得層が細り、高所得層がより豊かになっています。必要なところにカネが流れついていないのです。
選挙のたび打つ経済政策がいびつな社会構造を作り出しています。民主主義を支える最重要の装置が所得格差を生み、国によって程度の差はあれ、社会の分断が進んでいます。
中低所得層が細れば、国全体の消費も伸びず、経済の停滞を招く。停滞さけようと思って、財政金融政策を拡張しようとすると、新たな停滞にはまる。欧米はそれに気がついているのでしょう。
日本は世界一の対外純資産を保有しています。対外資産ということは、国内で使われていない。つまり海外を豊にするために金融機関を通じて流出し、国内経済は疲弊する。経済の歯車がかみ合っていない。次期政権が取り組むべき課題はここにあると思います。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年9月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。