【更新】岸田総裁の命運を決めるのはコロナ対策だ

池田 信夫

自民党総裁選の結果を踏まえて更新しました。

自民党総裁に岸田文雄氏が決まった。第1回投票で予想外の1位となり、決選投票でも岸田氏が257票を獲得して圧勝した。河野太郎氏に対する議員の反発が予想以上に大きく、コロナが収束して「総選挙の顔」への期待もそれほど大きくなかったのだろう。

河野氏の戦いは拙劣だった。保守層に配慮して「日本の伝統は皇室と日本語だ」という奇妙なスローガンを掲げる一方、具体的な政策はほとんどなかった。年金について最低保障年金を提案したのはよかったが、「消費増税だ」と突っ込まれると引っ込めてしまった。

最大の争点であるエネルギー政策についても、再稼動は認めたが、新増設は認めない方針を明確にし、「再エネ100%は絵空事ではない」という絵空事を主張し続けた。これに財界が反発して地方議員に圧力をかけたのだろう。議員票では3位に終わった。

コロナ対策のボトルネックは政治である

今後の政局を決める最大の要因は、経済政策でも外交でもなくコロナ対策である。ワクチン接種で状況は改善されたが、イギリスやイスラエルの状況をみればわかるように、ワクチンは万能ではない。この冬に第6波が来ることは、ほぼ確実である。

それにどう対応するかが、政権の命運を決める。国民の多くは感染の原因は政治の怠慢だと思っているので、コロナ陽性者数と内閣支持率が逆相関になり、菅氏のように退陣に追い込まれる。

岸田氏の「新自由主義からの転換」などの経済政策にはまったく期待できないが、当初からウィズコロナの方針を打ち出しており、4人の中では一番ましだ。次の図が彼のコロナ対策だが、大事なのは「医師会の協力」が得られるかどうかである。

岸田氏の政策パンフレットより

これは容易ではない。コロナ問題の根底には、日本の病院の8割が中小企業で、その統合ができないという医療産業政策の失敗があるからだ。医療には市場原理がきかないので、昔の商店街に八百屋や魚屋が並んでいたような状況が続いているのだ。

厚労省は中小病院を仕切る医師会に頭が上がらず、世界一の160万の病床のうち4万しか使われていない。補助金だけもらって患者を受け入れない「幽霊病床」が放置され、大阪府で患者があふれても隣県搬送さえできない。コロナ対策のボトルネックは医療技術でもワクチンでもなく、政治なのだ。

「ウィズコロナ」への転換が必要だ

昨年からアゴラで論じてきたように、コロナ問題の本質は医療資源の最適化である。その致死率はインフルエンザ並みなので、陽性者数に一喜一憂する必要はない。大病院をコロナ専門にし、その他の患者を個人病院に搬送して、すべての地域で

重症患者数≦ICUベッド数

の状態を維持することが必要十分条件である。この不等式は、日本では(今年春の大阪府を除いて)ほぼ一貫して満たされているので、インフルと同じ5類感染症に格下げして「平時」の体制に戻すべきだ。

この点について岸田氏はネットの質問に対して、コロナを2類でも5類でもない新分類にすると答えており、他の候補より少し踏み込んでいる。しかし「新自由主義に反対」して農協と仲よくしている岸田氏が、医師会の抵抗を押し切ってウィズコロナに転換できるだろうか。

政治的決断力が高いとは評価されていない岸田氏が、安倍氏や菅氏以上の指導力を発揮できるかどうかは疑問だが、政策転換に失敗すると、また第6波に右往左往して支持率が激減し、来年夏にダブル選挙だろう。