新型コロナ問題はICUベッド問題である

池田 信夫

ICU(国立病院機構・岩国医療センターHPより)

最近、医療崩壊という言葉がよく使われるが、これはミスリーディングである。日本の医療機関は世界的にみても整備されており、人口1000人あたりのベッド数も14床と世界一だから、医療が全面的に崩壊することはありえない。新型コロナで問題になっているのは、ICUベッドが足りないという特殊な問題である。

これは日本経済新聞も指摘するように、以前から関係者の心配していた問題で、ICU ベッドは全国で約6000床、人口10万人当たり5床と、先進国で最低レベルである。

日本経済新聞より

ベッド数の多い日本でICUベッドが少ないのは、老人医療を優遇したために、病院が「治療」ではなく「療養」の場所になったことが原因らしい。結果的には今回のように重症患者が一挙に増えると、他の医療設備には問題がなくても、 ICUベッドがボトルネックになって医療現場が混乱する。

ICUベッドのボトルネック解消が必要十分条件

これはサプライチェーンでもおなじみで、多くの部品が補完的に供給される場合、一つの部品がボトルネックになっていると、他の部品をいくら増やしても供給は増えない。医療でも、ある資源が絶対的に不足していると、他の資源を増やしても意味がない。つまり1ヶ月前の記事でも書いたように、

重症患者数<ICUベッド数

という不等式が満たされるかどうかが、コロナ問題を解決する必要十分条件である。これはインペリアル・カレッジの報告書も指摘しているが、イギリスの場合はICUベッド(図の赤い直線)がボトルネックになっているため、これをどう管理するかがややこしい。

インペリアル・カレッジ報告書より

どうやっても上の不等式が満たされない場合には、重症患者の一部を切り捨てる「トリアージ」が必要になる。これは通常は医療現場の問題だが、感染症の場合は社会全体の死者の最小化が目的関数になり、政治に厄介な問題である。

それに対して日本のようにICUベッド数が重症患者の最大値を上回る場合には、問題はむずかしくない。コロナ重症患者は全国で200人程度なので、それを効率的に配分すれば、6000のICUベッドで十分足りる。

これで足りないのは、資源配分に歪みがあるからだ。特にマスコミが大衆の不安をあおり、ワイドショーが「PCR検査を増やせ」と主張するため、症状のない人まで検査を受けようと病院に殺到する。医療スタッフがこうした不要不急の患者の対応に追われる結果、ICUのような救急医療のスタッフが足りなくなっている。

イギリスの図に日本のICUベッド数を書き加えると、上の図の青い点線のようになる。実際には日本の制約はイギリスより下にあるが、重症患者の数が非常に少ないため、患者の隔離(case isolation)で足りるのだ。それ以上の自粛もクラスター対策も必要なく、もちろん緊急事態宣言も不要だ。自粛が必要なのは、マスコミの過剰報道である。

局地的には感染爆発が起こるリスクはあるが、それも最終的には医療資源の問題なので、都市部では十分コントロールできる。それより日本経済が壊滅すると医療も困難になり、自殺でコロナの死者より多くの命が失われる。これは「命か金か」の問題ではなく、「命と命」の問題なのだ。