QUAD首脳、「威圧にひるまない」インド太平洋推進で合意も中国名指しせず

バイデン米大統領が主催し9月24日、ワシントンで初の日米豪印(QUAD)の4カ国首脳による対面での会談を行いました。首脳声明の英文はこちら、仮訳はこちらをご覧下さい。

首脳声明では、「中国」の文字は見当たりません。しかし「国際法に根差し、威圧にひるまず(undaunted by coercion)」と明記するように、中国を念頭に作成されたことは疑う余地がありません。

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(出所:首相官邸

ファクトシートによると、主なポイントは以下の通り。

新型コロナウイルス感染症及び国際保健

・日米豪印ワクチン・パートナーシップを3月に立ち上げ
・日米豪印でのコロナ対応に調整すべく、定期的に協議(QUADによるワクチン協力ダッシュボードを参照)
・インドのバイオロジカルE社が今秋に生産拡大、2022年末までに最低10億回分のワクチンを生産できるよう進める
・インドは10月からワクチン輸出を再開
・日本は33億ドルの緊急支援円借款を通じ、地域内のワクチン調達を支援
・豪州は東南アジア及び大洋州諸国向けワクチン調達のため、2億1,200万ドルの無償援助を供与、ラストワンマイルのワクチン展開支援に2億1,900万ドル割り当て
・日米豪印は、ASEAN事務局やCOVAXファシリティその他の関連組織と連携
・広範なコロナ対応や健康安全保障の取組において引き続き連携、パンデミックへの備えについての図上演習を22年に少なくとも1回共同で実施
・100日以内に安全で有効なワクチン、治療薬及び診断薬を入手可能にするための100日ミッションを支持し、現在及び将来における科学技術協力をさらに強化

〇インフラストラクチャー

・日米豪印インフラ調整グループの立ち上げ(高級実務者による日米豪印インフラ調整グループは定期的に会合を開催)
・ハイスタンダードなインフラ主導(2015年以来、日米豪印のパートナーは地域のインフラのため480億ドル以上の公的資金を供与、今後も遠隔地開発、保健インフラ、再生可能な発電など、30以上の国で民間投資促進を目指す)

気候

・グリーンな海運ネットワークを形成(日米豪印海運タスクフォースを設立、海運のバリューチェーンの脱炭素化を進め、2030年までに2~3件の低排出またはゼロ排出の日米豪印回廊の確率を目指す)
・クリーン水素パートナーシップを設立
・気候変動に対する適応・強靭性・準備を強化(気候・情報サービス・タスクフォース、災害に強靭なインフラのためのコアリションを通じ小島しょ開発途上国への技術支援を提供する新たな技術を設置)
※日本は、バイデン大統領が主導し、2030年までにメタンガス排出30%削減を目指す「グローバル・メタン・プレッジ」に参加表明

人的交流と教育

・日米豪印フェローシップを立ち上げ(米国で化学・技術・工学・数学/STEMの修士・博士課程の取得を目指す学生への奨学金プログラム、年間100人、4ヵ国から25人ずつを対象)

重要・新興技術

・原則に関する日米豪印声明を発表(技術の設計、開発、ガバナンス及び利用に関する原則声明の発表)
・技術標準コンタクトグループの発足(標準化活動及び標準化前の基礎的な研究に焦点を当てた、次世代情報通信及び人工知能に関す
るコンタクトグループの発足)
・半導体サプライチェーン・イニシアティブの立ち上げ(半導体及、その重要部品の供給能力をマッピングし、脆弱性を特定、サプライチェーン・セキュリティを強化する共同イニシアティブ)
・5G展開・多様化の支持(Open RAN 政策コアリションが調整する Open RAN の展開及び採用に関する1.5トラックの産業対話を立ち上げ、5G多様化を可能にする環境作りを促進)
・バイオ技術の動向調査実施(合成生物学、ゲノム解析、バイオ製造を含む先端バイオ技術などをモニタリング)

サイバーセキュリティ

・日米豪印サイバー上級グループを立ち上げ(サイバー標準の採用及び実装、安全なソフトウェアの開発、労働力及び才能の育成、その他安全で信頼できるデジタルインフラ整備の推進のため、定期的に会合)

宇宙

・地球及び海洋を保護するための衛星データを共有(気変動リスク及び海洋・海洋資源の持続可能な利用に関する地球観測衛星データ及び分析を交換するため、議論を開始)
・持続可能な開発のための能力構築を可能に(相互利益となる宇宙利用及び技術を支援し、強化し、促進するために協働)
・規範及びガイドラインについて協議(宇宙環境の長期的な持続可能性を確保するための規範、ガイドライン、原則及びルールについて協議)

QUAD4カ国首脳会議にあたって、中国は予想通り反発してきました。中国外交部の趙立堅報道官は「一部の国を標的にする小さく排他的な集団が、時代の流れや地域間の望みを反しており、支持を得られず失敗する運命にある」と批判したものです。また、首脳会議前の23日には、台湾が22日に包括的および先進的な環太平洋経済連携協定(CPTPP)への加盟申請を行った事情もあり、中国軍機24機が台湾の防空圏に進入していました。

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QUAD初の対面での会談、菅首相の横にはブリンケン国務長官の姿も (出所:首相官邸

その他、米中主要メディアは以下の通りのヘッドラインを飾っていました。

ワシントン・ポスト紙

「バイデンがQUAD首脳会議をホワイトハウスで主催、BGMに中国(As Biden hosts first Quad summit at the White House, China is the background music)」
→対中包囲網を目指したQUAD首脳会議だが、米高官は「非公式」で「非軍事的」と説明バイデン氏も、国連での演説で中国を名指しせず「新冷戦を望まない」と発言した。

ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙

「バイデン、中国への懸念を共有すべくホワイトハウスで首脳会議を開催(Biden Hosts World Leaders at White House to Share China Concerns)」
→4カ国戦略対話(Quadrilateral Security Dialogue)は安倍政権1期目の2000年半ばに概念が確立するなか、専門家は足元の動きに対し4ヵ国間の結束を固める必要性を示したものと分析。ブッシュ政権(子)とオバマ政権で元国務次官を務めたポーラ・ドブリアンスキー氏は「冷戦抑止だけでなく、紛争勃発の抑止」と指摘した。4ヵ国にとっては、QUADは中国が反発しようとも同国けん制に必要な体制だが、バイデン大統領は国連演説の通り中国の名指しを回避し、中国と外交上での対話を模索し続ける

環球時報、論説(英語版)

「共同首脳声明、QUADのトリックと台湾への空想を表面化(Leaders’ statement shows Quad’s tricks, Taiwan island’s fantasies)」
QUADの共同首脳声明では、「台湾」は言及されず。ワシントンの期待と裏腹に、台湾を最優先議題として扱うには思惑の違いが根深く、台湾に対し4カ国が同床異夢であることが示された。また”インド太平洋”は米国にとって、中国が標的であるにも関わらず、共同声明で”中国”の文字もは見当たらなかったが、これはワシントンの外交手腕の乏しさを表すトリックとなった。
→なお、9月23日付けの論説ではQUADを「邪悪なギャング(sinister gang)」、「地域を分割し、反中勢力を煽る体制」と非難。

サウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙

「QUAD首脳、ワシントンでワクチン、テクノロジー、気候変動で協力を確約(Quad leaders in Washington pledge cooperation on coronavirus vaccines, tech, climate change)」
→バイデン大統領と日豪印首脳、サイバー空間や新興技術を「信頼できる安全な」ものとすることを確約。また、学生交流プログラムなども優先事項に含む。

――共同声明では”中国”や”台湾”の文言を盛り込みませんでしたが、恐らく、バイデン氏自身が4月の施政演説で「中国との衝突は望まないが、競争は歓迎する」と発言した流れに沿ったものでしょう。一方で、QUAD首脳会議前にAUKUSが発足するなど、対中包囲網は着々と進行中。中国と台湾の表記をめぐっては、インド太平洋調整官のカート・キャンべル氏が「戦略的曖昧さ」の維持に言及する通り、いたずらに中国との対立を激化させないよう配慮したのでしょう。環球時報が「外交トリック」と呼ぶ米国の配慮は、10月30~31日予定のG20首脳会議に向け再度、習近平主席との首脳会談を目指す秋波だったのかもしれません。目的は、対中追加関税措置の国境炭素税への移行・・・というのは、あくまで筆者の妄想ですけどね。国境炭素税については、バイデン氏の弟分であるクーンズ上院議員(デラウェア州)とスコット・ピーターズ下院議員(カリフォルニア州)が連名で「FAIR移行競争法」を提出済み。3.5兆ドルの歳出案に盛り込まれていないため、財政調整措置で通過させるならばブルーウェーブを維持する中間選挙前、つまり2022年の年度変わりを狙う気がしています。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年9月29日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。