恒大の経営不振に端を発した中国の不動産業界の行方を見ていると日本のバブルが足元から崩れていくのを実務担当者として目のあたりにした時とつい比較してしまいます。
習近平国家主席の行おうとしているバブル潰しは日本のバブル期の日銀、大蔵省、建設省など政府が一体となって不動産価格抑制をしようとした行為とそっくり同じに見え、日本がそのやり方に失敗したことをどこまで学んでいるか、注目しています。
日本のバブル潰しの原因でよく言われるのは「平成の鬼平」と称される日銀三重野総裁の5度にわたる利上げがやり玉にあげられます。また、大蔵省は土田正顕銀行局長が「総量規制」と称する不動産向け融資の枠組みを発表したのですが、実務担当者としての実感はそこはどうにか耐えられた記憶があります。
ただ、「これはもう無理」と泣きが入ったのが建設省所管の国土法改正で短期売買に極めて高い重加算税をかけ、一定取引以上の届け出義務を設定したことで、手足を縛られました。
何故か、といえば土地開発の地上げのプロセスにあります。デベロッパーやゼネコンは地上げの当事者にはなりません。デベロッパーの取引する地上げ屋、ないしその傘下の地上げ屋が暗躍します。地上げする際には背後関係が全く分からない無名の会社に土地を「抱かせる」のが常套手段でそこからデベロッパーまで何度か転がす仕組みになっていました。
転がすことでちょい悪の地上げ屋の懐が温まる仕組みで当初の地上げ価格から利益が何度か上乗せされて最後にまとまった一団の土地がゼネコンないしデベロッパーに流れます。そこで「土地の浄化」が完了、本格的開発行為が行われます。その際、無名の不動産屋が地上げをする資金はどうしたかといえばデベロッパーがノンパンクあたりから保証をつけて借り入れをして、地上げ屋に転貸し、デベロッパーがそれに色を付けて買う際に転貸と相殺するという流れでした。
この実務の部分を政府や日銀は過小評価をしていたと思いますが、一般人にはあまり知られない特殊な社会構造が国土法改正で潰されました。しかも潰し方があまりにも役人的で衝撃が大きかった、それが実情だったと思います。国土法規制を回避するため「登記留保」という手段もありました。実際には土地の所有者は動いているのに登記せず、最後デベロッパーに移った時だけ登記をするのです。まぁ、グレーです。
さて、中国のバブル潰しは何が怖いか、といえば30年前の日本と同じで「抜け穴」の外周が埋められてきたように見えるのです。中国人と話をしていると数年前までは中国政府の各種引き締めに対して裏技が次々と編み出され、「化かし合いゲーム」が行われていたのですが、どう見ても中国政府が完全掌握しつつあり、政府方針に反するものは「一発退場」となりつつあります。
このやり方は長短があると思います。メリットは一気に潰すので日本のように「失われた〇〇年」が起きない公算があります。一方で短期的に大きな衝撃があり得ます。ではどのような衝撃か、といえば一時的にGDPの「マイナス成長」を加速させる公算です。ただし、感覚的には5年ぐらいで収拾すると思います。
問題は中国人はもともと「金の亡者」ですので「皆で平等に貧しくても分かち合おう」という精神を維持できるとは思えない点でしょうか?もう一つは中国は土地の私有がないため、土地使用権(居住地70年、工業地50年、商業地40年など)となっていて私から見れば広義のリースであります。ではリース期間が終わったらどうするか、という疑問があります。それらが国有になっていく運命をたどるのか、商業地はあと10年もすれば見えてくるでしょう。私が政府の悪徳役人なら一旦バブルつぶしを盛大にやって民間をぼろぼろにして政府が安値で買い取り、強大な政府資産を築くでしょうかね。
中国の隠れ債務は膨大な額ではないかとされます。ゴールドマンサックの調べではGDPの52%にもなるとされます。これをどうとるか、なのですが、私は日本の債務問題と同じなのだと思っています。つまり、日本も中国もそれら公的債権を国内の個人や企業が購入しており、最終的にはその負担は国内で還流して終わりなのだとみています。日本は潰れない、なぜなら国債保有者は国内がほとんどだからだ、という論理を支持するなら中国も潰れない、ということではないかと思います。
この辺りを含め、中国のバブル処理の行方に注目しています。賢い国ですから一定の衝撃があったとしても最終的にはへまはしないだろう、とは考えています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年10月1日の記事より転載させていただきました。