グーグルは「仮想空間の中国共産党」になるのか

池田 信夫

グーグルは広告ポリシーを変更し、気候変動に懐疑的なサイトへの広告掲載を停止し、YouTubeの動画も削除すると発表した。

気候変動の存在と原因に関する確立された科学的コンセンサスと矛盾するコンテンツの広告と収益化を禁止するGoogleの広告主、サイト運営者、YouTubeクリエイター向けの新しい収益化ポリシーを発表する。

これには気候変動をデマや詐欺と呼ぶコンテンツ、地球の気候が温暖化している長期的な傾向を否定する主張、温室効果ガスの排出や人間活動が気候変動に寄与することを否定する主張が含まれる。

ここでグーグルの書いていることは「確立された科学的コンセンサス」なのだろうか。

地球が温暖化する「長期的な傾向」はあるか

まず地球の気候は「長期的に温暖化」しているという主張が正しいかどうかは「長期的」という言葉の解釈に依存するが、たとえば杉山大志氏(IPCCの著者)があげているデータは図1のようになっている。

図1 地球平均気温の長期的推移

少なくとも最近1000年のデータでは「地球の気候が温暖化している長期的な傾向」は見られない。1000年~1300年ごろの中世温暖期の気温は今より高く、グリーンランドは緑だったことが確認されている。その原因ははっきりしないが、人間活動の影響でないことは明らかだ。

1850年以降の「工業化以後」の時期については温暖化の傾向がみられるが、20世紀なかばには気温が下がり、「氷河期が来る」と騒がれた。地球温暖化は長期的な傾向ではなく、単調に進んでいるわけでもないのだ。

人間活動は気候変動の原因か

温室効果ガスの排出が、気候変動に影響を与えていることは自明である。IPCCは第6次評価報告書で「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と断定した。人間活動が大気に影響を与えていることは明らかだが、それが最大の原因かどうかはわからない。

大気中のCO2濃度は、図2のようにほぼ同じペースで増えている。人間のCO2排出量は経済活動によって大きく変動するが、世界金融危機でGDPが下方屈折してCO2排出量が減った2009年にも、CO2濃度は単調に増えている。

図2 大気中のCO2濃度(NOAA)

人間のCO2排出量は大気中の炭素循環の7%程度なので、そのマージナルな変化が地球の気温に影響を与えるのは、他の条件がすべて一定の場合に限られる。大気に大きな影響を与える太陽活動などの自然条件は大きく変化しているので、人間活動の影響を同定することはむずかしい。

また人間活動で温暖化を防げるかどうかも疑わしい。地球の平均気温を1.5℃上昇におさえるには全世界で50兆ドル以上のコストが必要だが、これは温暖化のコストの10倍以上で不可能だ、というのがノードハウス(ノーベル賞受賞者)の科学的見解である。

グーグルに科学的真理を判定する権限はない

つまりグーグルの信じる科学的コンセンサスは、地球科学にも経済学にも存在しないのだ。気候変動は現実に起こっており、その原因の一部が人間活動にあることも確かだが、きわめて複雑な問題なのでそれ以上はわからない、というのが科学的に誠実な言明である。

科学的に不確実であっても政治的には行動が必要だという活動家もいるが、気候変動は人類の直面する最大の問題ではない。もっと緊急性の高い感染症のような問題は、地球上にたくさんある。それにどう優先順位をつけて資源を配分するかは、科学ではなく政治の問題である。

情報プラットフォームは仮想空間の支配者であり、それを利用すれば中国共産党のように人々の思考を支配できる。中でも最大の影響力をもつグーグルが、その行使を抑制しないのは危険である。民主国家で不適切な言論を排除する権限は、政府にしか与えられていない。

検索エンジンは科学的真理を追究する手段であって、真理を判定する公的機関ではない。自分だけが真理を知っているという思い上がりこそ、科学の最大の敵である。