減った理由も説明できない人たちが第6波に備えることを説く

中村 祐輔

なぜ減ったかを科学的に考えよ!そして、フレイル対策を急げ!

コロナ感染症陽性患者の急激な減少にも関わらず、専門家と称する人たちは、第6波に備えて病床確保が重要だと言う。一部の自称専門家は、感染者数の予測を大きく外してきたにもかかわらず、今も専門家と称して滔々と述べている。8月末には東京都だけでも1万人を超えるとの予測は大外れで、8月下旬から想像を超える減少となった。「学校が始まるので急速に子供の感染が拡大する」といったリスクの声もかき消すような信じがたい激減だった。

Juergen Sack/iStock

政府としては、ワクチン接種が進んだことを強調したいのだろうが、ワクチン接種が進んでいない国(たとえば、インドネシア、バングラデシュ、マレーシアなど)でも急速に減少している。日本の専門家は、欧米ばかり見て、アジアの動向などをちゃんと見ているのかどうか疑わしいもので。6-8月にかけての急増はデルタ株の影響が大きいが、急減した科学的な裏付けははっきりしない。今回の激減に対しての「人流の抑制効果」は疑問だ。生活様式は1年半以上の間、それほど変わっていない。第1回の緊急事態宣言時に比べれば、今回の人流抑制は甘っちょろいものだった。

急激に増加したので、みんなが注意を払うようになったというが、これも直感的で科学的ではない。季節性や周期性を指摘する人たちもいるが、このコロナウイルスは、春にも、夏にも、冬にも感染が拡大した。ウイルスがどのように季節を認識しているのか教えて欲しいものだ。そもそも1年中夏の気候のインドネシアやマレーシア、そしてタイでも同じような周期性を示している。私はアジア諸国、そして、中東諸国などでは、今回のコロナウイルスに類似しているが病原性がそれほど高くなかった風邪コロナウイルスがある程度広がっていたと考えている。SARSやMARSもコロナウイルスだが、コウモリから人へのコロナウイルス感染は日常的に起こっていたとする報告も出てきた。

減った理由も説明できない人たちが、第6波に備えることを説くのは、ほとんど漫画の世界だ。昨年のコロナ感染流行以降、日本のコロナ対策に科学があったのか、是非、新内閣で検証して欲しいものだ。もっともらしい説明はしているが、一般人でも推測できるような後追いの説明でしかない。感染対策の第1弾のPCR検査抑制で躓いた後は、自らの非を改めることなく、自粛・人流抑制と、理不尽なまでの飲食店叩きしかなかったように思う。

感染症である以上

  • ウイルスゲノムから情報を得る
  • 正しく感染拡大情報を把握するためにPCR検査を拡充する
  • 日本人集団の抗体の有無を十万人単位で調べる
  • 細胞免疫を調べるため、T細胞の免疫機能を調査する
  • そして、正確な感染拡大予測ができる体制を整える

ことは現状を把握するうえで不可欠だ。

社会的に大きな課題は、外出自粛によって起こった通常医療の受診控えや自粛の影響を把握することだ。特に、運動不足による運動機能の低下や認知機能の低下などのフレイル状態の実態を知り、それに対する対策は急務である。2025年には戦後の団塊世代が75歳に達する。それは、現時点で団塊世代が70歳を超えていることを意味する。私もこの世代に近い。私が中学1年生の時、1学年は20組まであり、1000人の生徒がいた。そして、3年生は1350人くらいいた。この世代の人たちがフレイルから進行して、要介護状態になると日本の医療福祉費は急増し、日本の医療経済は破綻の危機に直面する。9月1日時点で、70歳代の人口は1600万人を超えている。65-69歳も約800万人となっている。70歳代の要介護人口が5%増加すると、要介護人口は一気に80万人増えることになる。65-69歳も含めて考えると医療負荷による「日本沈没」が起こる危険性が増す。これでいいのか、日本の医療は!


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2021年10月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。