操り人形のペルー・カスティージョ大統領が7人の閣僚を刷新したわけ

操られた人形と思われていたペルーのカスティージョ大統領は遂に自らが7人の閣僚を刷新した。

政権誕生から僅か70日で7人の閣僚の入れ替え

大統領になるまで政治経験のまったくなかったペルーのペドロ・カスティージョ大統領は10月6日、首相を含め19人の閣僚から成る内閣から7人を刷新した。なぜそのような事態になったのかというと、それまで過激派が主体の構成になっていた内閣では今後の政権運営は非常に難しいと判断したからである。

大統領が属している政党「自由のペルー」は少数政党で、定員130議席の共和国議会において37議席しかもっておらない。しかも、首相だったギド・ベリード氏は嘗てのテロ組織センデロ・ルミノソを擁護していたことで提訴されており、コカの葉を消費することを奨励したり、キューバが独裁国家であることを否定している人物である。

大統領を党首の操り人形にさせる役目を首相が担う

ではなぜべリード氏を首相に任命したのかというと、カスティージョ大統領の政党の党首ウラジミル・セロン氏が背後から政権を操ろうとしたからであった。政治経験がなかった大統領にとって彼を大統領候補に指名したのはウラジミル・セロン氏だったということ。彼のお陰で大統領に成れたとカスティージョ氏は感じてセロン氏の助言に従ったものだ。その為にセロン氏の手足となって閣僚内で動ける人物べリード氏を首相にするようにカスティーリョ大統領に助言したというわけだ。

カスティージョ大統領が誕生する前まで暫定的に大統領になっていたサガスティー氏もべリード氏の首相就任に反対を表明して「テロを擁護するような人物が政府を率いるべきではない」と述べたほどだった。

べリード氏以外の6人の前閣僚もこのテロ組織に関係していたとか、あるいは汚職などで問われていた人物だ。これらの人選はすべてセロン氏の指導によるものだった。

だから、カスティージョ氏を大統領に選んだ場合はセロン氏やべリード氏が主張していた基幹産業が国営化がされるのではないかという恐れを感じていた有権者や企業家を前にしてカスティージョ氏は財務経済相と法務相には中道左派の人物ペドロ・フランケ氏とアニバル・トッレス氏を任命することを選挙戦後半から表明していた。勿論、この決定にはセロン氏とべリード氏は反対を表明していた。

ところが、フランケ氏とトッレス氏はべリード氏が首相になるということを知ってから、彼の指揮のもとで閣僚になることを辞退した。それに対し、カスティージョ大統領が即座にこの二人を説得して閣僚に就任することを同意させた。

このような経緯があった内閣では政権を運営して行くことは当初から困難だということが分かっていた。最初の議会で内閣は信任されはしたが、このままでは政権を持続させていくことは不可能と誰もが推測していた。

首相が勝手に大統領の意向に背く発言をするようになった

それが次第に明らかになったのは、べリード首相がペルーで最大のガス田カミセア地区での外国企業による採掘に政府の意向が反映させられない場合は国営化すると大統領や閣僚会議での事前の了解もなく発言したのである。また、エクトル・バヘル外相がペルーの海兵隊と米国のCIAがセンデロ・ルミノソを誕生させたと発言して軍部と野党政党の圧力の前に辞任。その後任にベテラン外交官で米国寄りのオスカラ・マウルトゥア氏を大統領は外相に選任した。

キューバやベネズエラを擁護しているセロン氏とべリード首相はこの選任に党の方針に背くとして反対を表明。そして機会ある度にマウルトゥア氏が辞任できるための扉は常に開かれているとべリード氏は発言をしていた。

これらの言動が野党の反感を買い、また少数派の与党では今後の政権の運営は難しいと判断したカスティージョ大統領は僅か70日しか経過していなかった内閣の刷新を決めたのである。もうこの時点ではカスティージョ大統領も政治の仕組みを理解するようになっていて、遂に大統領が自らの判断で決定するようになったのである。

与党は大統領の内閣改造を支持しないと表明

自由のペルーのスピーカーを務めるセロン氏の弟ワルデマル・セロン氏は彼の政党は今回の大統領の決定を支持しないと表明し、議会での新内閣の信任に反対票を投じると表明している。しかし、同党の議員が全員今回の決定に反対しているのではなく、それに賛成を表明している議員もいる。ということで、僅か37議席しかない与党が二分する可能性もある。もともと、セロン氏の弟がスピーカーになったのも兄のセロン氏の意向で成ったもので、それに同党の11人の議員は反対を表明していた。

ウラジミル・セロン氏は大統領選に立候補を望んでいたが、汚職などの罪状を抱えており立候補できない状態にある。そこで政治経験のなかったカスティージョ氏を自分の操り人形にすべく大統領選に立候補させたのであった。

一旦政権に就くとセロン氏は内閣はべリード氏に首相としてコントロールさせ、与党自由のペルーのコントロールは彼の弟にさせようと図ったのである。

ところが、カスティージョ大統領は現状のままでは政権の運営は非常に難しくなり、弾劾裁判にかけられる可能性のあることを察知して今回の勇断に踏み切ったという次第だ。

新首相は中道穏健派で自由のペルーの議員ではない

新たに首相に就任したミルタ・バスケス氏は弁護士出身で、サガスティー氏が議長だった時に副議長を務めた人物で、同氏が暫定的に大統領に就任したことで議長に昇格していた。彼女は穏健派でセロン氏が憲法改正を主張していることについても、それは優先事項ではないとしている。また、内務相に就任したルイス・バランスエラ氏はウラジミル・セロン氏の弁護士を務めていた人物だ。セロン氏がこれから内閣を批判するにも閣僚の中に彼の秘密を知っているバランスエラ氏がいるということに留意する必要が生まれている。

カスティージョ大統領は閣僚の刷新を前にテレビ演説で「わが政府は選挙で公約したように健康、空腹、貧困といった大きな問題に優先的に取り組むべく政権運営を推進して行く為にいくつかの決定を下した」と述べたのである。10月7日付「ラ・レプブリカ」から引用)。

与党自由のペルーが大統領支持派と反対派に内部分裂しかけている。そして大統領を罷免させるだけの十分な議席数をもつ野党の前にカスティーリョ大統領の今後の運命は不透明な状況に包まれている。恐らく、カスティーリョ大統領は4年の任期満了を待つことなく辞任するか罷免になる運命になりそうだ。