アマゾンのビジネスモデルの限界

アマゾンの株価は20年8月以降、1年以上にわたってフラットな状態になっています。この株高の1年の間、ほとんどそのメリットを享受できなかった代表的銘柄であり、ホールダーの方は残念な思いをしているでしょう。ではなぜ、株価が上がらないのか、業績が悪いのか、といえば全く逆です。

20年12月の決算期を前年と比較すれば売り上げ37%増、経常利益73%増、最終益84%増、一株当たり利益に至っては81%増なのです。とすれば同じPER(一株あたり利益)から換算した適正株価は当然、8割上がるのが理論株価ですが、全くそうならないのです。

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くしくもアマゾンはアンディ ジャシー氏が今年7月にベゾス氏の後をついてCEOになりました。ジャシー氏はAWSを率いた功績がありますが、果たしてアップル社のジョブズ氏からクック氏へのような引継ぎができるのか、ビルゲイツ後のマイクロソフトのような低迷期となるのか、アマゾン帝国の行方は1-2年、様子見が必要です。

しかし、今、アマゾンという声がかつてほどではないのがなぜなのか、考えてみたいと思います。

私どもはカナダで日本の教科書や書籍販売をするにあたり、BtoCについては自社オンラインとアマゾンへの納品、およびリアル店舗で行っています。昨年9月は大学がオンライン化したものの学生が教科書をゲットする術がないということで自社とアマゾンの両方のオンラインでの注文が急増しました。アマゾンは確かに知名度もあり、オンラインといえばアマゾンでしたので、昨年はアマゾン経由の販売量が多かったのです。ところが、今年9月の新学期は自社オンラインへの誘導を進め、アマゾンではかなり絞った数にしました。

どう絞ったのかといえばアマゾンの「fulfillment Centre」に積極納品しないことにしたのです。なぜか、といえばアマゾンの場合二つの問題があるのです。一つは提示価格。同じ商品の場合、安い価格を提示した方が上に上がります。つまり買ってもらえる可能性が大なのです。すると非カナダの個人事業主などが破格値をつけてアップするのです。(私どもはカナダで唯一の正規ルート日本の書籍販売会社です。)そうすれば当然それが「落札」されるわけです。つまり、アマゾンに商品を提供する場合、商品の差別化をするのが難しく、消費者は価格比較を重視するため、売り手からすれば「蛸は身を食う」状態になるのです。

アマゾンのビジネスモデルは商品価格を必要以上に引き下げ、売り手側への価格圧力を迫るのです。そういう意味では消費者重視であるのですが、納品業者軽視のスタンスになっているのです。

もう一つはアマゾンの手数料が高いのです。商品にもよりますが、いろいろな手数料を足し合わせれば大体売り上げの2割以上は持っていかれます。例えば書籍などは仕入れ価格が一般的には上代の75-80%ぐらいでしょうからそれだけ持っていかれるとまず、利益などでないのです。

ただし、売り手側が「在庫処分」という発想で、いくらでもいいから持って行ってくれ、という場合には逆にアマゾンの販売力が使えるとも言えます。これを逆手に取れば意地悪な売り手はアマゾンに処分品だけをアップするという売り方もできるかもしれません。

以前、このブログでご紹介したようにカナダのショッピファイが個人経営者向けにオンラインストアのサービスを提供しており、大きく成長しています。将来的にはアマゾンや楽天といった巨大なオンラインストアは一選択肢と化し、全く違うビジネスモデルができるとみています。それが例えば地域ごとのオンラインモールであるとか、ある業種に特定したモール、あるいは商品のディテールが詳細にわかるようにしてウェブチャットを介して店員と商品の説明ができる、さらにはARやVRを使ってその商品を自分が身に着けたり装着した感じを出すなど工夫の余地は無限に広がります。

私はアマゾンをぶっ潰すとある出版社の社長に言って冷笑されたことがあります。その時はアマゾンは神様です、の状態でした。あれからまだ3年もたっていないですが、アマゾンがつぶれるとは思いませんが、構図は確実に崩れるとみています。ビジネスモデルはそれぐらい日進月歩であり、「帝国」を築けてもその覇権の期間はどんどん短くなっているともいえるのではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年10月14日の記事より転載させていただきました。