なぜモデルナの接種後死亡者は少ないのか?(前編)

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コロナワクチンの2回接種は、最終コーナーに差し掛かかり、データは、かなり集積されてきました。そこで、以前より気になっていた「なぜモデルナの接種後死亡者は、ファイザーのそれより遙かに少ないのか?」について考察してみることにしました。

現時点で、ファイザーは1197人、モデルナは35人です。差が生じた主たる原因は、接種者人数と年齢構成ですが、それで本当に説明がつくのか分析してみます。

厚労省で公開されているデータ(ファイザーモデルナ)を、VBAを用いて自動集計しました。

ファイザー製ワクチンの接種後死亡者の年齢分布です。80歳~89歳にピークがあります。

モデルナ製ワクチンの接種後死亡者の年齢分布です。50歳~59歳にピークがあります。グラフを見比べますと、モデルナ製ワクチンの年齢構成はファイザー製ワクチンのそれとは大きく異なることがよく理解できます。

ファイザー製ワクチンの年齢別の接種人数、割合、接種後死亡者数、発生確率を表にまとめました。
発生確率は、100万人接種あたりの接種後死亡者人数です。別の言い方をしますと、発生確率に100万を掛けた数値です。接種人数は、厚労省が公開している年齢別接種回数のデータより算出しました。

モデルナ製ワクチンの年齢別の接種人数、割合、接種後死亡者数、発生確率を表にまとめました。
発生確率は、100万人接種あたりの接種後死亡者人数です。

ファイザー製ワクチンの接種後死亡者は、現時点で1197人、モデルナ製ワクチンのそれは35人です。倍率としては、34.2倍です。まず、年齢構成の補正をしてみます。ファイザーの接種者の年齢構成をモデルナのそれと同じと仮定し、ファイザーの発生確率で、接種後死亡者数を計算してみました。結果は、8.5倍です。更に接種人数の補正をしますと、1.7倍となりました。

因果関係がないという前提で、他に考えられる原因としましては、高齢者の全身状態の差異です。モデルナ製ワクチンを接種した高齢者は、大規模接種会場まで自力で来られた人であり、全身状態が良好な人が多かったと推測されます。他には、何らかの事情で、モデルナの報告漏れが多かったなどです。

厚労省のWebサイトでは、海外のデータも報告されています。それによりますと、欧州でのファイザーの接種後死亡者の発生確率は12.0件/100万回接種、モデルナのそれは8.2件/100万回接種です。倍率を計算しますと、1.5倍です。年齢構成の差異は不明ですが、日本の補正後の1.7倍の近似値となったことは、興味深い現象と言えます。

次に、統計的有意差検定を行ってみます。

補正前の数値を用いて、カイ二乗検定で調べますと、有意水準1%で有意差ありでした。ただし、接種後死亡者は、高齢者に多く、その分布に偏りがありますので、年齢別の検定も行うことにしました。モデルナの接種後死亡者数は少ないため、50代のみカイ二乗検定、それ以外はフィッシャーの直接確率検定を用いて検定しました。

年齢別に発生確率、倍率、有意差の有無を表にまとめました。倍率は、ファイザーの発生確率がモデルナのそれの何倍かを示しています。

有意水準5%で有意差ありとなったのは、70代のみでした。

まとめ

ファイザー製ワクチンの接種後死亡者は、モデルナ製ワクチンのそれの34.2倍である。年齢構成と接種人数の補正をすると、1.7倍となる。この値は、欧州データの1.5倍に近似している。検定すると、70代のみ有意差ありとなる。

以上で前編は終了です。

実は、年齢別の接種後死亡者の発生確率と同じ意味の表が、厚労省のWebサイトでも公開されています。しかし、なぜか数値が大きく異なっているのです。後編では、この謎を解明する予定です。

(後編につづく)