国立感染症研究所によれば、今年7月までの全国の超過死亡数(平年のトレンドと比べた死者の増加)は6352人~3万4483人だった。幅が広すぎてわかりにくいが、平均すると約2万人。平年に比べて過少死亡だった昨年に比べて、大きく増えている。
超過死亡の原因のほとんどは感染症だが、コロナ死者は1万1525人。残る8500人はコロナ以外の死者である。感染研によれば「医療の逼迫が影響した可能性がある」という。地域別にみると、目立つのは4~6月の大阪府で最大25%も超過死亡数が出たことだ。確かにこれは医療資源の調整ができなかった失敗が原因だろう。
ワクチン接種の影響は軽微
気になるのは、ワクチン接種との関係である。ワクチン接種で死者は減るはずだが、図3のようにワクチン接種数は今年4月から単調に増え、それに並行して超過死亡数が増えている。これは因果関係を示すわけではないが、ワクチンの効果は夏までは大きくない。
図3
他方、反ワクチン派のいうようにワクチン接種で死者が増えるとすると、接種率の高い地域では死者が増えるはずだ。しかし1回接種率が80%を超えた東北地方では、5月以降に超過死亡が増えたが、統計的に有意な上限値ぐらいだ。
図4 山形県の超過死亡数
他方、接種率の低い地域では死者が減るはずだが、1回接種率66.4%と全国最低の沖縄県の超過死亡数は、今年2月に上限値を超えた。これはワクチン接種の開始前なので、医療体制の問題だろう。それ以降はほぼ全国平均程度である。
こうしてみると、ワクチン接種で死者が減る効果は大したことないが、接種によって死者が増えたわけでもない。消去法で考えると、今年の超過死亡の最大の原因は、単なる平均への回帰だろう。
超過死亡を防ぐのは医療資源の適正配分
図1でもわかるように、昨年は約3万人の過少死亡であり、この最大の原因は呼吸器系疾患(肺炎・インフルエンザ)の減少だった。つまり昨年行われた患者の隔離や行動制限で高齢者が延命され、その「在庫処分」が今年おこなわれたと考えるのが妥当だろう。
半年で2万人というペースは、去年の反動としては速いが、世界的にみると大したことはなく、ワクチン接種の反動が大きいイギリスやイスラエルのようにはなっていない。日本の超過死亡データの集計は遅いので、9月以降の第5波の影響はこれから出てくるが、死者が少なくなったのはワクチンの効果だろう。
このデータでわかるのは、超過死亡を減らすのは行動制限ではなく医療体制だということだ。医療資源の絶対量は不足していないので、救急医療の適正配分が必要だ。隔離は死を延期するだけである。先進国で被害最少だった日本で、高齢者の死期を1年延期するために、これほど多くの犠牲をはらう必要があったのだろうか。