自然感染後の免疫を、自然免疫とは呼ばない

鈴村 泰

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新型コロナ感染症の解説で、自然免疫という言葉を耳にすることが多くなってきました。以前から、少し気になっていたのですが、この用語は時々誤用されています。自然感染後の免疫を、自然免疫としている場合があるのです。自然感染した後の免疫なのだから、その免疫は自然免疫なのだろうと考えがちですが、免疫学の用語の使い方としては、正しくありません。

英語の解説では、「Vaccine-induced immunity」に対して「Natural immunity」という用語が使用されています。「Natural immunity」は、自然感染後の免疫という意味で使用されています。「Natural immunity」を直訳しますと、自然免疫となってしまいます。一方、日本語の自然免疫の英訳は「Innate Immunity」です。これらのことも、自然免疫の誤用が増えている原因と思われます。なお、「Natural immunity」の認知された日本語訳は存在していません。あえて訳せば、自然感染免疫または自然感染後免疫です。

自然免疫の説明を引用してみます。

自然免疫は、病原体に対する最初の防御にあたり、宿主への感染が成立する前に排除する役目を負う。この防御システムが突破されると、獲得免疫が作動する。
自然免疫では、マクロファ-ジ、樹上細胞、好中球などの貪食細胞、NK細胞や補体などが中心的な役割を担う。

獲得免疫の説明を引用してみます。

獲得免疫には、一度侵入した病原体の情報を記憶し、再び侵入された時に一早く対処できるよう学習することができるという特徴があります。一度かかった病気にかかりにくいのは、この獲得免疫が抗体を作ることで、ウイルスなどの抗原を処理してくれているためです。

以上の説明より、「Vaccine-induced immunity」と「Natural immunity」は獲得免疫であり、自然免疫「Innate Immunity」とは異なる概念であることが理解できたと思います。

さて、ここからは、「Vaccine-induced immunity」と「Natural immunity」は、どちらが強い免疫なのかについて考えてみたいと思います。

厚労省は、「Vaccine-induced immunity」の方が強い免疫と考えています。そのため、既感染者に対しても、ワクチンを2回接種することを推奨しています。ところが、最近、「Natural immunity」の方が強い免疫なのではという報告が見られるようになってきました。専門家のなかでも、見解が分かれているようです。

「Natural immunity」の方が強いとする論文( Science )より引用しています。一部意訳しています。

  • 新型コロナウイルス既感染者は,未感染のワクチン接種者と比べて,感染、発症および入院の可能性が非常に低い。
  • 未感染のワクチン接種者は、ワクチン未接種の既感染者と比べて、6倍~13倍の確率で感染する可能性がある。
  • 既感染のワクチン未接種者は、既感染のワクチン1回接種者に比べて、再感染する確率が2倍になる可能性がある。
  • 既感染者が,ワクチンを接種すると,新型コロナウイルスに対して非常に広範で強力な抗体を作り出される。

データ分析方法や解釈に若干の問題が指摘されており、コンセンサスが得られたとは言えないようです。更にデータが集積されて、感染症の専門家のなかで、早く一つの結論に達してほしいと思います。

この論文が正しいとするならば、既に感染している人が、ワクチンを拒否するのは、根拠のある正当な主張ということになります。また、感染したという診断書は、ワクチンパスポートと同じ意味を持つことになります。日本でも、「Natural immunity」について、もっと活発に議論されるとよいと思うのですが・・・。