英グラスゴーで国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が今月12日までの日程で開催中だ。COP26では、「パリ協定」と「気候変動に関する国際連合枠組条約」の目標達成に向け、締約国が具体的な行動を推進させるために協議するが、気候変動に大きな影響を与えている環境汚染大国・中国の習近平国家主席が欠席したことで、COP26の目標実現に暗雲が漂ってきた。
一方、欧州連合(EU)は3日、停止してきたイラン核協議を今月29日、ウィーンで再開すると発表した。国連安保常任理事国(米英仏露中)にドイツとイランの関係国は今年6月から停止されてきた核協議の再開を目指す。イランで反米強硬派のライシ大統領が選出されて以来、初めてだけに、その行方が注目される。
今回のテーマは「COP26」とイランの「核協議再開問題」が予知する人類の近未来についてだ。前者は地球レベルの環境保護問題であり、後者は地域の安保・軍事問題だが、両者に奇妙なつながりを感じるのだ。そのインスピレーションを与えてくれたのは1冊のSF小説「2022年 地軸大変動」(早川書房)だ。著名な実業家で、作家の松本徹三氏の渾身の力を込めた小説だ。SF小説という枠組みで書かれているが、その内容は非常に近未来のテーマを扱っている。COP26が開催中であり、イランの核協議の再開を控えている現在、その内容が大きな津波のように読み手を襲ってくるのを感じるのだ。簡単にいえば、非常にタイムリーであり、聖書学的に表現すれば、黙示論的な内容を含む小説だ。
本は400頁だが、当方はまだ250頁あまりしか読み終えていないので、本を完全に読み終えた段階で改めて書評をまとめるつもりだが、250頁の段階で得たインスピレーションを失わないために今回、コラムで記録する。
クールと呼ばれる惑星からきた異星人(バンスル・モルテ)は想定外の行き違いで地球に漂着したが、その地球を自身に住みやすい気候にするために地球の地軸を変動させることを計画する。具体的には、「地球を自転させている地軸を変えて、太陽に対する傾きをゼロにし、直射日光が1年中一定地域に集中するようにした上で、ギアナ高地からもさして遠くないアンデス山脈全域、特に風光明媚な山脈の南部か、等しい赤道上に位置するように新しい極点を決める」という。
異星人は2人の人間(米国務省スタッフと日本人のフリージャーナリスト)を招き、その計画を伝える。2人は異星人の計画を地球上の指導者たちに伝え、被害を最小限に抑えるために対策に乗り出す。興味深い点は、異星人は地球上にある全ての核兵器を破棄するように要求し、異星人が地球人より優れた科学技術、知性を有した存在であることを実証するために世界の2カ所、米国のサンディエゴ市と中国杭州市で殺傷力の強いウイルスを散布すると述べていることだ。
2人は直ぐに関係国の指導者に警告を伝える。米大統領を含む世界の指導者は2人から聞く異星人の話を容易には信じられない。その対応は中途半端に終わる、異星人が警告した時刻がきて、米国と中国の2都市で多くの人間がウイルスに感染して死ぬ。ただ、ウイルスの感染時期が過ぎると、ウイルスは消滅し、元の状況に戻る。全ては異星人が予告していた通りに進展していく。地球上で対立してきた世界の指導者たちは異星人の地軸変動計画が現実の脅威であることを知る。
地軸が変動すれば、寒帯地域が熱帯地域になり、アフリカなど熱帯地域が南極の寒帯地域となるから、気候大変動に直面し、生存ができなくなった地域の人間は地軸大変動が完了するまでに移動しなければならない。国民を受け入れてくれる国、地域を探さなければならない、例えば、サウジアラビアは地軸が変動すれば、寒帯地となることから国民を大移動しなければならない。そこで宗教的に近いイスラム教国のインドネシアに移住する話を進めていく、といった具合だ。
松本氏の新著を読んでいくと、英グラスゴーの「COP26」とウィーンで開催される「イラン核協議再開問題」が奇妙に繋がってくるのだ。COP26のアロック・シャルマ議長は、「地球の気温を制御するために気温上昇を1.5℃に抑えるには、科学的に見て、今世紀後半までに、私たちが生み出す炭素は大気中から除去される量よりも少なくなっていなくてはならない。これが『ネットゼロ(温室効果ガス排出量実質ゼロ)』を達成するということだ」(国連COP26関連文書)と、COP26の目標を明確に述べている。しかし、地軸が大変動すれば、温室効果ガス排出量実質ゼロどころの問題ではなくなる。地球自体が崩壊する危険性が出てくるからだ。巨大な惑星がある日突然、地球に衝突するかもしれない。「2022年地軸大変動」は、未来を予知できないうえ、それらの出来事を完全に防止できない地球人の運命を象徴的に描いている。
「核問題」はイランを含む関係国にとって、どのような意味合いが依然あり得るだろうか。米国防総省によると、中国は2030年までに少なくとも1000発の核弾道を保有する可能性があるという。先月亡くなったコリン・パウエル元米国務長官は、「核兵器はもはや使用できない武器となった」と述べたが、地球の存続をかけたテーマから見た場合、核兵器の有無はもはや議論の対象ともならなくなる。
新型コロナウイルスは既に500万人を超える犠牲者を出している、異星人が放ったウイルス(カルブソ)とこの点でも重なってくる。新型コロナウイルスはパンデミックとなり、感染を広めている。世界は初めて同じ困難に直面しているわけだ。その意味で、世界は連帯し、結束できるチャンスを迎えているわけだが、感染から2年目が過ぎた今も、ワクチンの公平な配布を含め、世界の現実は、国益や貧富の格差などをクリアできずにいる。
繰り返すが、英グラスゴーの「COP26開催」とウィーンでの「イラン核協議再開問題」が同時期に交渉のテーブルにあることに時代の啓示性を見出すべきだろう。今年9月25日に発行された松本氏の新著「2022年地軸大変動」は現代人が今真剣に考えなければならない内容を提示している。
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編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年11月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。