アメリカの量的緩和縮小と日銀の現状維持

小難しいタイトルをつけて申し訳ありません。なるべく優しく書きます。

Bet_Noire/iStock

アメリカの中央銀行に当たるFRBは11月2-3日に開いた定例会合で金融の量的緩和縮小を発表しました。FOMCの定例会合の結果発表は北米太平洋時間で通常は午前11時。株式市場はあとまだ2時間開いています。毎度のことですが、トレーダーはこの瞬間にすべてを集中させ、その発表の内容でどどっとマーケットの指標が動きます。しかし、通常、パウエル議長の記者会見がその直後に開かれるため、その内容を読み解き、消化した時、第二弾の動きがあることも多くなっています。

分かりやすく言えば日本で大事件の裁判があるとき、判決が読み上げられると記者が判決だけを聞いて傍聴席から飛び出し、外で待ち構える現地レポーターを通じて「無罪です!」とカメラの前で叫び、判決文が判明した後、内容が子細に伝えられるのと同じです。

さて、私も今回の様子を見ていたのですが、11時の発表を受けたコメントを読み、瞬時に「ハトだ!」と心の中で叫びました。つまり弱気トーンです。案の定、発表を受けて株価指数はナスダックを中心にぐいぐい上がり、金の買い戻しもありました。なぜ、ハト派と思ったのか、といえば緩和縮小におっかなびっくりである姿勢が報道の随所にアリアリと見えたからです。事実、雇用はFRBが満足する状態には程遠く、労働市場では完全なるミスマッチが起きています。サプライチェーンも崩れたままでコロナも再び欧州を中心に増加傾向が鮮明になっています。

日経に「FRB、金融正常化へ未曽有の難路 緩和縮小に着手」とあります。「正常化」がどういう状態でどれだけ続くことを指しているのか分かりませんが、個人的にはFRBが金融緩和策を介して購入した国債や住宅担保証券ローンの資産は多少増減があっても永久に消えることはない、とみています。

何故か、といえば昨今の景気循環が一般的ななだらかなものではなく、落ち込むとき衝撃的な崩落をする傾向が強いため、中央銀行が大手術、リハビリをする時間がどんどん長くなる傾向にあるのです。しかも現在は利上げをするのが正しいのか判断に悩むところで利上げは「時期尚早」としています。

一方、同日に英国であった中央銀行政策決定会議では数か月以内の利上げを提示しました。カナダもすでに量的緩和を終了しており、来春の利上げが見込まれています。韓国、ニュージーランド、ノルウェーはすでに利上げしています。韓国の場合8月に利上げをし、株式市場は1割強下落、今月に追加利上げを見込んでおり、影響が大きくなりそうです。

では日本はといえば10月27-28日に開催した定例会合で量的緩和の維持を決めています。理由はインフレにならない日本だからです。これだけ資源価格が上昇してもインフレにならないのです。明らかにおかしいですよね。

私はその理由の一つに日本の国債の国内消化率が高すぎることに原因があるのではないかと疑っています。現在日本の国債の外国人所有率は7.2%に過ぎません。日銀が48.2%持ち、銀行、生保、年金で4割強持ちます。これがなぜインフレ率に関係するのでしょうか?

通常、国債は10年物が注目されます。どこの国でも同じです。特に住宅ローン金利は10年物国債の利率が大きな決定要因になります。その中で日本だけは国内で消化される国債と日銀の上手な国債市場の支配により価格(利回り)が絶対安定しているのです。アメリカで株価が下向くときは概ねこの10年物国債の利率が急騰(価格が下落)するときです。つまり、日本ではどうやっても利上げ機運は国債の指標からは出てこないのです。

もしも日本の国債のしかるべき比率を外国人が所有すれば今頃、国債の利回りは急騰し、日銀では量的緩和縮小が論じられていたはずです。当然、企業は激しい荒波と向き合わねばならないのですが、幸か不幸か、日本は完全に守られているのです。幸か不幸か、というのは国内だけで全てが自己完結する社会なら幸ですが、海外の中の日本となれば不幸になります。なぜなら先進国とのギャップが開き、中韓などの激しい追い上げで距離を詰められるからです。

我々は長年日本政府の借金である国債は国内消化されているから安心だ、と言い続けていました。これは実は「見ないふり」なのです。いつまでも日本国内で国債が消化されるとすれば日銀がずっと買いあげる財政ファイナンスのような形にならざるを得えません。高所得者の高齢者の平均年齢は上がり、年金、生保もリターンが低いので運用は国債外しが増えるでしょう。

私からみればどう見ても我慢大会なのですが、目に見えて温度が上がらないためにゆでガエルの認識に乏しいのだとみています。仮に国債市場が株式市場のように海外投資家により影響を受けるようになれば日本経済は今とは全く違った絵図になると予想します。多分99%の日本人は嫌がるでしょう。

しかし、これが日本の独特の経済環境の背景の一つの公算はあります。つまり「失われた〇十年」はバブルからの回復が遅れたのではなくもっと違うところに原因があるのではないか、と私は考え始めています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年11月5日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。