2021年衆院選から見る、日本の分断と変革

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変わらない自民一強の構図

 衆院選開票前の予想獲得議席数に関する報道は自民党をヒヤヒヤさせたに違いない。各メディアは自民が議席減に向かうという論調で報じており、一部は自民単独での過半数獲得は難しいと思われた。さらに、選挙期間中に自民党の中で流布された選挙本部からの通達は自民党が各選挙区で感じていた逆風を物語っていた。

しかし、結果的には当初自民党が感じていた不安は杞憂に終わった。現職幹事長、閣僚経験者を含めた大物が小選挙区での落選を経験したものの、それは野党も同様であった。そのため、大物議員の落選という現象は。既存の自民党体制に対する反発というよりかは、党派性にこだわらずに政治において世代交代を望む一般的な国民の思いの反映だと筆者はとらえる。

さらに、自民党は公示前より議席を減らしたものの、単独で絶対安定過半数を獲得した。一方、立憲民主党と共産党の野党連合の方が議席の下げ幅で見れば大きかった。2017年の比例代表選挙では立憲民主党は自民党に次ぐ第二党につき、今回の選挙でも野党で一位の比例票を獲得した。しかし今回の選挙で、立民が失った比例の議席とほぼ同数が第三極である維新にそのまま流れたことを考えると、有権者が立民に当初感じていた刷新性を実感しなくなった、批判勢力として同党の姿に不満を覚えていた傾向があると指摘できる。

今回の選挙を総括するならば、実質的な自民党一強という2012年以降の日本政治の構図が維持されたといえるであろう。同時に、大物議員の落選による政界内の新陳代謝の促進、抵抗より推進を掲げる第三極を支持し、求めた有権者がいたことも世論調査の結果から推察することができた。この傾向は抵抗勢力に与党が忖度しながら政治を進める、日本政治を長らく拘束してきた「55年体制」のシステムに異議を唱える有権者が一定数いることを示した。筆者としては日本を変えたいと思う勢力が存在し、今回の選挙で声を上げたことは、今回の選挙の中で数少ない朗報のひとつである。

一方、そのようなグッドニュースがある反面、今後の日本政治を占ううえであまり喜ばしくない現象が日本を覆いかぶさろうとしていることも認識できた。それは分断という現象である。

世代間、地域間の分断

11月7日付の日経新聞の記事によると各世代、地域ごとで投票行動に違いが出ていることが分かった。日経の調査によると40歳未満の比較的若い層が自民党を支持し、逆に高齢者が野党を支持するという傾向が見られた。目を引くのが、40歳未満の有権者の票だけを数えて、それを議席配分すると自民党は単独で295.5議席まで獲得することができるという指摘である。

さらに、今回の選挙で大都市で軒並み自民党が苦しんだことは世代間の対立だけのみならず、地域間の分断がはっきりとしてきたことも露呈した。コロナ禍で大都市圏に住む人々、特に飲食業が大打撃を受け、窮屈な生活を強いられた。それらのことに対する鬱憤が大都市圏による与党に対する反発につながったという解釈もできる。

世代間、地域間闘争の時代へ

政治的分断という現象が西洋特有の専売特許ではなく、日本も例外ではない。現代日本では、社会保障、安保、価値観、などいった様々な争点で世代間、地域間の対立が表面化している。今回の選挙で、その対立は実際の闘争という形態で爆発はしなかったが、着実にぐつぐつ煮えているマグマのように社会の裏に潜んでいることが明らかになった。そして、そのマグマが噴火するのは時間の問題である。なぜなら、各世代、地域間で異なる争点を見比べたときに衝突は不可避だからである。

社会保障に関しては、若年層は自らにかかる負担を軽減し、持続的なシステムの構築を望むが高齢者層は現状のシステムに安住しているため現状維持を望む。

安保に関しても二つの見方が世代間である。戦後から冷戦終了間際にかけて、比較的平和な時代を人生のほとんどを生きてきた世代は軍備増強を望まず、非武装中立という1970年代の亡霊から抜け出せれない人々もいる。その反面、冷戦の二極構造の解体、中国の軍事大国化の副作用に混沌とする波乱の時代を生きている世代が持つ危機感は、上記で述べた平和の時代を生きてきた世代と根本的に相容れない。

さらに、地域間でも、産業構造の違い、住む人々の生活習慣、所得水準の差異などが関係して、衝突は避けられない。

上記のような根本的な利害の不一致が日本社会で着実に進行しているのにもかかわらず、それが一見して見えないような気がするのが不思議なくらいである。

第三極の躍進に期待を添えて

日本は分断社会に突入するという様相を見せ始めている。しかし、冒頭で述べた第三極の躍進という「良い兆候」から、やっと日本が分断の原因を認識し始めて、それを改善する方向に動くのではないかという期待を寄せずにはいられない。

日本には変革が必要であり、変革に伴う議論の噴出や、意見の対立も、どのような政策やビジョンが日本に必要かどうかを見極めるうえで必要なことである。だが、どのような変革も、それを推進しようとする勢力がいなければ果たされない。硬直した既存の日本政治のシステムにメスを入れようとする、改革勢力の躍進に希望を抱きたいと思う。また、有権者に約束したことを実行できるかどうかを同時に厳しい目で注視していきたい。