去る10月31日の衆議院議員総選挙において、自民党と公明党で過半数を獲得したことを受け岸田政権の継続が決定した。
各地で激しい選挙戦が繰り広げられたが、筆者は特に「鹿児島1区」に注目していた。というのも、支持基盤を持つ立民現職の川内博史氏との与野党一騎打ちという、激戦必至の選挙区において、宮路拓馬氏はニッチなテーマである「フェムテック」を一丁目一番地に掲げたからである。
男尊女卑の風潮が強いと言われる鹿児島で、生理や更年期など女性特有の健康課題を最新技術で解決することを謳う、これは並大抵の覚悟ではできないことだ。
実は、総裁選に立候補した野田聖子氏も、討論番組にて「次の日本の成長産業は?」という質問に対し、「フェムテック」と回答し、具体的な政策として検討していた。
「2021ユーキャン新語・流行語大賞」にもノミネートされたフェムテックだが、初めて耳にした、聞いたことはあるがよくわからないという方が多いのではないだろうか。
本稿では、フェムテックとは何なのか、なぜ成長産業として期待できるのかについて論じたい。
「フェムテック」とは何か。市場規模はどれくらい?
まず、フェムテックの語源は、2012年に開発された月経管理アプリ「Clue」の代表Ida Tin氏が投資家向けに新ジャンルを説明する言葉として、「Female(女性)」と「Technology(テクノロジー)」をかけ合わせて作られたものと言われている。
筆者が事務局長を務める一般社団法人メディカル・フェムテック・コンソーシアムでは、フェムテックを次のように定義している。
(生物学的)女性およびそのパートナーのウェルネス・セクシャルウェルネスを解決するために開発された、テクノロジーを使用するソフトウェア、診断キットその他の製品及びサービスを指す言葉
「テクノロジー」とは言っても、月経管理アプリ、吸水ショーツ、月経カップといった国内でも馴染みのあるものから、おりものの状態を測定する機器、骨盤底筋のトレーニングを行う機器、スマート搾乳器、陣痛トラッカーといった新しい製品・サービス、さらにはセルフプレジャーアイテムまで、フェムテックに含まれるものは非常に幅広い。
米国を中心としたフェムテックの市場規模は、2018年には1.8兆円にものぼり、2025年には5兆円へと成長するとの予測もあるが、日本においても、商品・サービスの数は2019年から2020年にかけて倍増しており、スタートアップによる資金調達の動きが盛んになっている。
ただ一方で、矢野経済研究所の調査では、2020年のフェムケア&フェムテック市場は前年比3.9%増の597億800万円、2021年は6.5%増の635億8400万円と予測されており、成長市場ではあるものの、依然として大きな開きがあることは否めない。
では、国内のフェムテック市場はこの先どのように成長していくのか、経済産業省の見立て、取り組みについて紹介しよう。
2025年時点のフェムテックの経済効果は約2兆円とも
まず経済産業省の直近の動きとして、2020年度にフェムテック産業の実態調査を行い、報告書を公開している。
また、2021年度には、「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」の間接補助事業(約20事業者)を公募し、フェムテックを活用して、働く女性の健康課題等を解消するためのサポートサービスを提供する実証事業を開始した。
経済産業政策局 経済社会政策室による「働き方、暮らし方の変化のあり方が将来の日本経済に与える効果と課題に関する調査 報告書 (概要版)」では、働く女性のライフステージに沿う形で「月経」「妊娠・不妊」「更年期」と3つの分野にわけて試算し、2025年時点のフェムテックの経済効果は約2兆円と推計している。
「試算仮説・前提条件」に示されている通り、あくまでこの資料では働く女性の仕事におけるパフォーマンス改善や、退職・勤務形態変更そのものが減ることで生み出されるであろう経済効果について述べている。
つまり、フェムテック製品、サービスが普及することでできあがる「市場」についての話ではないし、フェムテックブームが来ているとはいえ、それがそのまま市場拡大につながるとは限らない。米国のように兆単位の市場にしていくためには、薬機法上の位置付け・承認プロセス、国民皆保険制度との兼ね合いなど、決して小さくない課題があるからだ。
「フェムテック振興議員連盟」が発足し、本格始動
ここで、宮路氏の取り組みに話を戻そう。2020年10月30日に、宮路氏の強い働きかけにより、自民党国会議員の有志による「フェムテック振興議員連盟」(会長:野田聖子氏)を発足した。
この議連は、フェムテックの振興を図ることにより、生物学的女性およびそのパートナーの生活の質が向上し、より豊かな人生を送れるようになること、また、それにより日本の経済の発展に資することを目指し、必要な規制緩和等に関する提言を行うことを目的としている。
具体的には、女性の健康課題として大きく3つの分野、月経に伴う症状、不妊治療・妊活、更年期における諸症状に注目し、
- 先進的な技術で、生理期間を快適に過ごせる社会
- 不妊治療を含む妊活を支援することにより、子どもを望む人が希望を実現できる社会に
- 更年期の諸問題を解決し、社会・経済のリーダーとなる世代がより活躍できる社会に
という3本の柱を掲げ、これらの課題の解決に向け、どのように政策的に取り組んでいくか、厚生労働省、経済産業省等の関係省庁やフェムテック事業者、業界団体、各種識者とともに議論を行っている。
2021年3月、当議連は一つ目の成果として、欧米にて流通しているフェムテック関連製品が日本においても迅速に承認され、良質な製品が消費者のもとに届くよう、産官が協力して薬機法上の位置づけ等を検討する場を設けるべきとし、フェムテックの普及に向けた政策の推進に関する提言を取りまとめた。
筆者も弊法人の理事長とともに同席したが、官房長官、政務調査会長、厚生労働副大臣、経済産業副大臣への提言の申し入れにおいて、より具体的に活用シーンやメリットをイメージできるよう、さまざまなフェムテック関連商品を手に取ってもらい説明していたのが印象的だった。
成長産業化への期待感と今後の動き
その甲斐もあり、2021年6月18日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2021」(骨太の方針)では、「女性の活躍」の文脈において「フェムテックの推進」という文言が盛り込まれ、国として取り組むテーマであることが明示された。
また、上記の提言を受けて、衛生用品分野の業界団体である日本衛生材料工業連合会とメディカル・フェムテック・コンソーシアムとの共催で、厚生労働省やフェムテック関連事業者とともに、薬機法ワーキンググループが開催されている。
このワーキンググループでは、約1年かけて吸水ショーツ、月経カップ、医療機器、デリケートゾーンケア製品について、薬機法上の位置付けや、製品評価を行うために必要な観点等について検討し、整理をする。
当議連では引き続き、不妊治療・妊活支援、更年期等の課題に対し、フェムテックを活用してどのように解決するかを議論し、政府に対して提言を行っていく予定だ。宮路氏肝入りのフェムテック、その市場の動きに注目したい。