分社化、新たなトレンドになるのか?

インフラ、ディバイス、半導体メモリー by 東芝
航空、ヘルスケア、エネルギー by GE

日米2つの大手電機メーカーが時を同じくして会社を3つに分社化する方向で検討が始まりました。そもそも分社化は日本ではあまりなじみがないと思います。そのあたりから覗いて、将来的に分社化が新たなトレンドになるのか、考察してみたいと思います。

東芝HPより

分社化にもいろいろあります。日本では多くの場合、多数の事業を抱える企業が、自社で抱き込むより「かわいい子には旅をさせよ」的な発想でごく一部の事業を外に出すというケースが見られます。例えばソニーがパソコン事業を外に出したケースも一種の分社化ですが、電機メーカーはこの分社化が比較的多く、東芝、シャープ、パナソニックなど多くの企業が歩んできた道のりです。

但し、そのほとんどの場合、本体からの一部切り離しという感覚が強く、今回のように会社そのものを分裂、分社するというケースはあまりなかったかと思います。

ではなぜ、そういう大々的な分社化になるのでしょうか?私の見立てでは、多くが不振に陥った会社がその立て直しの過程に於いて会社の価値を向上させるためにテクニカルな手法として「コングロマリット ディスカウント」の解消を目指す、ということかと思います。

分かりやすく言うと再生中の企業に於いて事業が3つあった場合、1+1+1=3にならないのです。本当なら相乗効果で3.5とか4になって欲しいのに例えば2.5にしかならないとすればそれは市場の評価過程において0.5の価値が発揮できていないということになります。東芝もGEも経営再生中にあるため、両社とも数多い部門の切り売りやリストラを経てコアだけが残ってきている状態です。

東芝はこの分割のうわさが11月8日に流れました。金曜日の株価の終値は5122円。情報が漏れたあとの月、火曜日は両日ともさえない展開で火曜日の終値は4845円です。つまり2日間に5.4%、株価が下落しているのです。

一方、GE。発表があった火曜日の寄り付きに年初来高値を付け、一時6%の値上がりとなっています。(引けは2.65%上昇)この差は何なのか、ここが分社化プランの難しいところなのです。

日経には分社化したケースとしてヒューレット パッカードとダウ デュポンのケースを紹介しており、前者は成功、後者は開花せず、としています。実は私もついこの前売却した目薬で有名な医薬品のボッシュが分社化を年初に発表しておりました。あと数か月のうちに実行するはずですが、株価に大きなインパクトはなかったのです。もう一例としてこれも投資先のアメリカの不動産系企業では会社が真っ二つに割れて、分割先の株式が私にも割り当てられました。そのケースの場合は分割された企業の株価が2倍ぐらいになる一方、もう一つの本体が不振のままという状態です。

つまりコングロマリット ディスカウントはケースバイケースであってあたかも複合企業の宿命であるような印象すら持ちますが、分社化することが必ずしも会社価値の向上につながるかどうかは分からないのです。

東芝の場合、そもそも半導体部門であるキオクシアの価値への偏重が大きく、物言う株主達もこの価値に着目する一方、残る本体については「本当に生き残れるのか?」という若干の疑問符がついていることは事実です。もちろんこじんまりとはやっていけるはずですが、日立のように世界に打って出ることが可能か、という議論は数字だけ見ても出ないのです。その企業のリーダー、潜在性、社風、従業員の質など案外文系的な要素も大きいのです。

もう一点、東芝の場合、先行き真っ暗の頃は株価が2000円ぐらいだったのに対して今はその2.5倍の水準です。つまりすでに何らかの期待値が株価に反映されています。一方、GEの場合、長らく株価は低迷、このところのアメリカの株高で一緒に押し上げられようやく2倍ぐらいになったという感じです。つまり、GEは分社化が想定外であってようやく経営再生から脱却できる道筋と市場が期待したところはあります。

上述の目薬のボッシュの場合、そもそも株価が300㌦を超えていたものの不祥事から10数㌦まで売られたのです。私はそこで買ったのですが、現在の株価は妥当な価値である36㌦程度でこのところ、レンジバンドの動きですので、分社化による価値創造が株主の間では今一評価されていないということなのです。

分社化というのは一つの経営上のテクニックですが、普遍的な手段にはならないものの私はある分野では使えると思っています。例えば自動車業界では以前にも申し上げたようにEVが普及してきた際に内燃機関と分社化して区分けしてしまう方がよいと思っています。そもそも日本はまだ専用シャシーもありませんが、欧州や韓国メーカーはEV専用プラットフォームを持ち始めています。工場も別々の流れです。将来的に環境問題がもっと前面に出てくる中で一つの会社が内燃機関とEVを一緒にやっていると企業評価で圧倒的に不利になると私は考えています。

もう一つのケースはアマゾンです。アマゾンはアマゾンウェブサービスが稼ぎ、アマゾン本体がぼちぼちという感じです。相乗効果も今一つですからアメリカで時折話題になる巨漢企業への批判をかわす観点からも分社化してもいいのではないかと思います。日本なら楽天がコングロマリットの典型です。またサイバーエージェントのABEMAテレビ部門は藤田さんの個人的思いが強すぎます。私はコーポレートガバナンス上、切り離し、本体の評価に影響を与えるべきではないと考えています。

コングロマリットディスカウントは経営学的でMBAあたりで教え込む机上の論理ですが、世の中、そんなに甘いものではなく、もっと奥深い研究が必要だと思っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年11月10日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。