政府と日銀が2%のインフレ目標をやめる方向で検討するようです。よい子のみなさんは何のことかわからないと思うので、超簡単に説明します。2021年11月13日の記事の再掲です。
Q. インフレって何ですか?
正しくは「インフレーション」といい、商品やサービスの値段が上がることです。物価は消費者物価指数(CPI)であらわしますが、図のようにこの20年で3.5%しか上がっていません。
消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)
Q. 最近インフレになってきたのはなぜですか?
アメリカではCPIが去年より6.2%上がり、日本でも企業物価指数が8.0%上がりました。世界的にコロナ後の不況から回復し、原油や天然ガスなどの資源価格が上がっているので、物価が上がっているのです。
日米のインフレ率(日本経済新聞より)
Q. でも値上げしないと損するのではありませんか?
そこで定価を上げないで分量を減らすステルス値上げが起こっています。「ステルス」というのは「隠密」という意味です。
こんな感じで、目立たないように少しずつ量を減らすのでシュリンクフレーションともいいます。これはシュリンク(縮む)ということばとインフレーションの合成語です。
Q. インフレ目標って何ですか?
政府と日銀は2013年1月に「大胆な金融政策に向けて」というアコードを結び、「物価安定の目標を消費者物価の前年比上昇率で2%とする」という目標を決めました。
これは「日銀が輪転機をぐるぐる回してお札をすればデフレ脱却できる」という安倍首相に対して、「そんなことしたらインフレが止まらなくなる」と心配した白川総裁が抵抗したのですが、押し切られて2%という目標を明記したのです。
Q. インフレはいいことなんですか?
物価が2%上がると同じ所得で買えるものは2%減るので、インフレはいいことではありません。「デフレ不況」などというのは錯覚で、デフレになると同じ所得で買えるものは増えるので実質賃金は上がり、サラリーマンは豊かになるのです。
インフレもデフレも景気変動の結果なので、結果を変えて原因を変えることはできません。風邪をひいて熱が出たとき、体温計を冷やしても風邪がなおらないのと同じです。
Q. ではなぜインフレにするんですか?
この理由は2つあります。一つはインフレにして実質賃金(給料-インフレ率)を下げることです。日銀が「賃上げ要請」するのは変な話で、インフレ目標は実質的な賃下げで利益を出すための目標なのです。
もう一つは実質金利(金利-インフレ率)を下げることです。これはむずかしいのですが、自然利子率(実体経済が均衡する実質金利)がゼロより低いときは、政策金利をゼロにしても、それ以上金利を下げることができません。そこでインフレにして実質金利を下げるのです。たとえば金利がゼロでも2%のインフレになると
金利-インフレ率=-2%
なので実質金利は-2%になり、マイナス金利が実現できます。
Q. どうしてインフレにならなかったんですか?
2000年ごろからすでにインフレ率はゼロになっていたので、それが上がるためには、人々の予想インフレ率を変えないといけません。ところが日銀が2%のインフレ率を設定していると知っている人は、日銀の世論調査でも25%ぐらいです。
つまりほとんどの人は、インフレを予想していなかったのです。インフレ予想を起こすにはインフレにならないといけませんが、そのためには人々がインフレ予想をもたないといけない…というニワトリと卵の関係になって、インフレが起こらなかったのです。
Q. どうしてインフレで円安になるのですか?
物価が上がるということは、お金の価値が下がることですから、円が安くなります。これで輸出する商品の価格が海外で安くなり、景気がよくなるはずです。そこで日銀の黒田総裁はインフレ目標を設定したのですが、きかなかった。
そこで長期金利をゼロに抑え込むYCC(国債の買い支え)をやったのですが、これに対してアメリカの金利が上がったので、資金が日本からアメリカに流れ、円安になったのです。
Q. 日銀はインフレを止められるんでしょうか?
日銀が想定しているのは、お金が増えて物価が上がるインフレなので、今回のようなコストプッシュの資源インフレにはききません。こういうインフレ予想が起こると、日銀が止めることはできません。
それより危険なのは、1000兆円以上に積み上がった国債が暴落して、金融危機が起こることです。もう無意味なインフレ目標はやめ、物価を見ながらゆるやかに金利を上げる出口戦略をとってはどうでしょうか。