長い文章、短い文章

私は読むことも仕事の一つなので長い文章でも読み込むチカラは普通に備えています。長編小説もまったくOKで仮に1000ページあっても400ページが5巻ぐらいあっても内容がついてくるなら問題ありません。ところが、最近の方はニュースサイトで短い文章に慣れているので少しでも長いと読めない傾向があると思います。

そもそも日本語の傾向として強まったのが文章の省略です。欧米の文章は主語と述語がありますが、日本語は述語だけでやり取りできます。「早く片付けなさい!」とは母親が子供によく言う言葉ですが、これには主語がありません。「ごはん、お風呂、どっち?」というのも帰宅したご主人に奥さんがよく言う言葉です。もっと進化すると「おい、あれはどこだ?」「あそこですよ、お父さん」「おお、そこにあったか!」となり、第三者が聞けば全く通じない家庭内言語と化しています。

日本語で主語がなくても通じるのは相手が悟るということを期待しているからです。ところが英語の文章には当然ながらそんな期待はありません。仮に英語を使うご夫婦であっても文章は文章です。そもそも欧米の言語は主語によって述語の一部である動詞が変化するわけですから主語がないと文章として成立しないということになります。これは言語学的な意味合いだと思います。

ただ、それ以上に大事なのは外国には様々な民族や宗教、教育レベルの背景をもった人がごった煮の状態にある点です。するときちんとした文章でないと発信者の意図が伝わらない、あるいは間違って伝わることになります。そのために文章をきちんと書き込むのが当たり前になります。

patpitchaya/iStock

私はこちらのデイリーニュースを必ず読んでいますが、まずもって記事が長いのです。長い理由は執筆者が自分の主張を間違いなく伝えるためにかなり詳細にまで書き上げるからでしょう。正直言って私の朝の濃密な時間に長い文章の記事は読み切れません。時として読み飛ばしもあるし、コアの部分だけを読んであとは省略ということもあります。更には節の第一文章だけを読む速読をすることもあります。

一方、マーケット関係のニュースは時間との勝負ですのでコンパクトにわかりやすく1分程度で読み切れる内容が多くなっています。(というよりそれなりの分量がありますが、急いで読み解かねばならないのでかなり集中して読むから早く読めるのかもしれません。)アメリカの新聞は週末版を別にすれば比較的記事が短い気がしますが、カナダの方が記事は長い気がします。カナダ唯一の高級紙Globe & Mailは読みやすいと思いますが、高級紙としての品格がありタブロイド紙のような手軽さはないと思います。

さて、文章を読めない、書けない日本人と言われています。国際学習到達度調査(PISA)は世界79カ国60万人(2018年度実績)が参加する3年に一度の試験で日本からは高校1年生が6100人参加しています。PISAの結果だけを見ればメディアが言うほど顕著な悪化傾向が出ているとはまだ言い切れないと思っていますが、結果だけを見れば77カ国中15位でした。過去20年上下の振れはありますが、大体こんなレベルです。

但し分析を見ると小説を読む生徒は読まない生徒より45点差(531点VS486点)となり文章に親しんでいる人の読解力が高いことが結果として見えています。また新聞を読む生徒は2009年調査に比べ36ポイント減少の21.5%となっており、今後、読解力が下がると予想できる状況にあります。(たぶん、世界全体の話なので順位ではわからない絶対能力の低下があるとみています。)

最近はインスタに動画配信で文章を読み解くということをしなくても生活できるようになりました。しかし、一歩踏み込むと我々の日常は文章だらけで時として文章そのものが不完全であったり説明不足であることも多く、それが混乱をきたすこともしばしばあります。この私がカナダ人の作る文章に文句を言っているぐらいのです。それは文法の問題ではなく、何をどう伝えたいか、文章による明確なプレゼンテーション能力が欠如しているのでしょう。

文章を書き、それを読むのは人類だけの特徴です。その行方がなんともあやふやになってきた今日が気になるのは私だけなのでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年11月14日の記事より転載させていただきました。