バイデン大統領と習近平国家主席のオンライン首脳会議が3時間余り、行われました。その結果報道を読む限りにおいて本人たちは政治的にうまくまとめ上げたという自負があると思いますが、周りは次の展開が見えないところに、「それで?」という疑問符が付く内容ではなかったかと思います。事実、北米での報道の扱いはかなり低めです。
双方言い分がありますが、そもそも水と油の関係に近く、画面越しでは握手も出来ず、場の雰囲気もリアルの会談とはかなり相違します。その上、バイデン氏と習近平氏は旧知の仲と言いながらも一度も一対一のリアル会談をしたことがないのです。
また中国はバイデン大統領を調べ上げ、習氏に対して踏み込まないとみていた可能性は高いでしょう。なぜならバイデン氏は今、中国問題に更に踏み込んでも国内世論形成を含め、それに力を注ぎこむだけをする余力がないからです。民主党内でも温度差がある中、共和党に刺激を与えると余計複雑な問題が生じると計算するなら会談は平行線の中で緊張感を持たせるのが精いっぱいと読んだとみています。
事実、最大の注目である台湾問題は「綱引き」そのものでした。習氏は今の状態から更に台湾独立派が刺激的な行動をするなら中国は許さないとした一方、バイデン氏は現在の枠組みである「一つの中国」については容認姿勢を見せながらも台湾のより自由な国際社会での活動を支持するということに留まっています。
ではこの「綱引き」はどこまで動けば軍事的行動に移すのか、これは主観的な判断が伴うことになりそうです。つまり、1センチでも独立派が動けばレッドラインを超えたと一気呵成に中国が攻め込む可能性が引き続き残ります。そもそも習氏は自己成果の一つとして台湾を完全掌握することを明白な目的としている中で今回のやりとりからはそれを抑止する気は十分に感じられません。
一方、中国側も決して楽ではないはずです。一つは経済成長に明白な鈍化が出てきていることです。GDPは今後数年間にわたり更に下落を続け、5年後ぐらいには発表値ベースでGDP成長率3%台の普通の国家になるでしょう。その間、積もりあがった不動産を含む不良債権の処理を考えると負の経済力がむくむくと顔を出すことになり、日本が苦しんだバブル崩壊後と同様の低迷期に入る可能性があります。
そもそも「共同富裕」のスタンスは国家の圧倒的成長力を促進する政策とは真逆で、皆が手を取り合ってフラットな社会を作るということです。偏差値的に言えば70や80もいない代わりに30以下の落ちこぼれも作らない社会です。習氏がそのような成熟社会を今の時点で目指し始めてしまったことで中国の経済成長は終わりを告げた、ということになります。個人的には中国の本質的能力はこんな程度ではなかったはずだと思っています。
もう一つの習氏のアキレス腱は国内の政敵との距離感ではないかとみています。「歴史決議」とその重みに対する実績が毛沢東氏、鄧小平氏に並ぶものだったのか、であります。成果は?功績は?となれば、腐敗撲滅には注力しましたが、経済については2020年GDPは2010年の2倍にするとしましたが、達成できていません。一帯一路政策もそもそもは中国で過剰生産された財の輸出先の確保という点から生まれた発想です。しかし、無理な中国側の相手国側への押し売り、そして返せない債務の代わりに現物を実質的に支配するというやり方には世界的な批判があります。インドネシアの高速鉄道建設も頓挫しました。
個人的にはこの米中首脳会談の内容からは当面、両国間が「がっぷり四つ」になっている間に東南アジア、インド、中東、更にはアフリカや欧州の諸国を含め、様々な国がバラバラの動きを示してくる時代になるとみています。米ソ冷戦時に日本やドイツがその間隙を縫って大きな成長をしたのと同じです。その点では地理的に両国間にある日本はやり方によっては非常に面白いポジションを築くことも可能かと思います。ただ今の日本の政治家にはそのような野心と実力を持つ人は誰一人いないと思います。
今回の首脳会談を定期的に行う枠組み作りも行われませんでした。対話重視としながらも次はいつ話をするのか、具体的事象が上がった時に思いついたように行うのか、少なくとも年2回ぐらい、定期的に交信する関係構築をするのかで様相はずいぶん変わったと思います。
習氏はイニシアティブをとらないタイプなのでバイデン氏の積極攻勢に迫力を欠いた、とみられても致し方ないかもしれません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年11月17日の記事より転載させていただきました。