立憲民主党の課題

倉沢 良弦

11月19日に告示が行われる立憲民主党代表選に際し、同党が抱える課題について拙考をまとめた。枝野前代表の方針を継承するのか、あるいは全く新しい立憲民主党としてスタートするのか、が大きく注目される。

野党第一党として第二次安倍政権に対しての攻撃姿勢を前面に打ち出した立憲民主党は、菅政権に代わって以後、与党追及の矛先を政府のコロナ対策に絞って追求してきた。

果たしてその追求姿勢が正しかったか否かの結果が、先の衆院選の結果に現れている。

立憲民主党は、改選前より13議席減らし96議席となった。結果的に野党第一党は守ったものの、日本維新の会の31議席増やれいわ新選組が初めて3議席を獲得するなどのニュースが目立ち、野党共闘をおこなった立憲民主党も日本共産党も議席を減らしたことで、国民の野党に対する意識が変化していることが数字となって現れた。

ただ巷間、野党共闘自体が良く無かったとの意見もあるが、私はそうは思わない。

有権者が判断したのは、本来の野党第一党の働きが出来なかった点ではないだろうか?

2016年の森友学園の土地取引に関わる疑惑を大阪市議が追及する形で表面化した問題は、旧民進党から現在の立憲民主党へと野党再編が行われるのと時を同じくして、次第に国会森友問題、加計学園問題を中心に安倍元総理の疑惑追及を行ってきた。

しかし、多くは週刊誌や新聞記事の後追いで、疑惑を追及することで安倍政権の信頼性に疑問を投げかけ、支持率低下させて政権交代を目指してきたが、その追及姿勢そのものが野党本来の姿だろうか?という疑問が国民の中に湧いたことが最大の理由だったのではないだろうか。

「中道の沃地」を放棄した立憲民主党 衆院選結果から読み解く選挙戦略と世論の乖離

旧民主党で国対委員長を務めた加藤敏幸氏は時事通信のコラムの中で「熱量不足」を挙げているが、問題はその熱量の源であろう。国民、有権者が政権交代の熱量を高めるのは、社会に広がる不安感をもたらす社会情勢が大きく影響する。

90年代以後続くデフレ不況に加え、東日本大震災は日本に更なる社会不安をもたらし、次第に広がる閉塞感を打開する政策を打ち出せないまま、旧民主党は信頼性を失ってきた。

旧民主党から自民党への政権交代が行われた時、国民の間にはコロナ不況による閉塞感を拭えないまま旧民主党への期待感の裏返しがあった。「やはり自民党に任せるしかない」「安倍晋三自民党総裁なら、日本を変えてくれる」という熱量があった。2012の秋、既に旧民主党から自民党への政権交代が予見される動きが、当時の株価に見られる。

株価推移

衆院選を控えた安倍自民党総裁は、大胆な金融緩和、財政政策、成長戦略の三本の矢を打ち出し、特に経済の閉塞感を打開する戦略を打ち出した。それは旧民主党の政策とは真逆と言えるもので、その期待感に国民は湧いた。

2011年10月の日経平均は8,800円程度だが、旧民主党から自民党に政権交代した3ヶ月間で株価は3,000円上昇し、以後、大規模な金融緩和によって、日経平均は右肩上がりで現在、30,000円に手が届く勢いだ。

勿論、日経平均だけが経済を見る指標ではないが、少なくとも株価の上昇は悪いことではない。

このように国民の期待感は景気動向に現れるのだから、国会において景気対策や賃金を引き上げる政策を中心に、国民目線に立つ政策を打ち出せなかったのは、立憲民主党の失敗だったと考える。

加えて、立憲民主党はリベラル政党を自称しているが、果たしてリベラルな政党と言えるかは疑問だ。

『正義論』の著者であるジョン・ロールズは「弱者を救済して福祉政策をとる社会民主主義の立場」をリベラリズムと定義つけた。そのアメリカは、コミュニタリアニズムとリベラリズムが混在している社会を形成していて、必ずしもアメリカの民主党が言うリベラリズムが日本のリベラル思考に当てはまるとは言い切れない。

立憲民主党議員の中心にいた議員が、LGBT問題、BLM問題を引き金に差別問題、マイノリティ問題を引き合いに出すとしても、それは必ずしも日本に馴染む問題とは言えない。仮に日本のマイノリティ問題を取り上げるなら、日本社会に根強く存在する特別永住者問題を取り上げるべきだし、その現実との乖離があるマイノリティ擁護姿勢は、特定の強固な支持基盤へのアピールでしかない。

つまり、立憲民主党の与党に対する対決姿勢の方向が、必ずしも国民目線ではないところが一番の問題だろう。

先述の加藤氏の言を借りるなら、「熱量」が足りないのは、立憲民主党の前代表である枝野氏の国民目線の不足だったのではないだろうか?

新代表はこの枝野色の払拭が大きな課題だ。

倉沢 良弦
会社経営者(代表取締役)。年齢55歳。個人サイトにてブログ執筆中。大学卒業後、20年間のNPO法人勤務を経て独立。個人事業主と会社経営を並行しながら、工業製品の営業、商品開発、企業間マッチング事業を行なってきた。昨年、自身が手がける事業を現在の会社に統合。コラムやブログは企業経営とは別のペンネームで活動中。


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