国会議員の挨拶文を官僚が作成!?

21日の朝日新聞に「議員のあいさつ文、作成は職員に負担?1年で400件、厚労省が内部調査」という記事が出ました(ちなみに、記事中の元職員は僕ではありません(苦笑))。

議員のあいさつ文、作成は職員に負担? 1年で400件、厚労省が内部調査:朝日新聞デジタル
 国会議員の一部が支援団体などの会合に出席する際、あいさつ文や講演資料の作成を厚生労働省の職員に依頼していたことが、同省の内部調査で明らかになった。少なくとも400件が確認され、与党からが中心だったが…

国会議員が支援団体などの会合に出席する際、あいさつ文や講演資料の作成を官僚に依頼することは、日常的にあります。記事は、厚労省の話ですが、国会議員が出席して挨拶するイベントは、別に厚労省関係に限りませんので、他の省庁でも同様の対応をしていると思います。

MasaoTaira/iStock

これについては、官僚の働き方の現状を明らかにして、改革を提言した拙著「ブラック霞が関」(新潮新書)でも詳しく書きました。詳しく知りたい方はお読みいただけますと幸いです。

国会議員の挨拶文の件については、SNS上でも話題になっていますが、論点はいくつかあると思います。

一つひとつ、考えてみたいと思います。

論点① 公私混同ではないか
官僚が国会議員の求めに応じて、政府の政策の内容やスタンスを説明するのは、本業なので、その範囲においては公務の一環と言えるのではないかと思います。

一方で、イベントの詳細情報を基に、そのまま読めるような挨拶メモを作成するのは、やりすぎのように感じます。これは、役所の仕事ではなく、議員の活動なので議員又は秘書の仕事だろうと思います。

論点②官僚に余計な仕事をさせるのは公益に反するのではないか
霞が関の過酷な働き方は、社会問題化してきており、今年の骨太の方針でも、国家公務員の働き方改革に取り組むことが明記されました。

長時間労働の中で、体調を崩す職員も多く、近年若手の離職が増加し、国家公務員試験申込者数は減少しています(下の図参照)。

このままの状況を放置すれば、政策提案能力や政治が決めたことをちゃんと執行する能力が低下し、国民に迷惑がかかってしまうでしょう。

余裕があって、官僚たちが暇ならともかく、今の状況を考えると、国民のための政策立案など優先度の高い仕事に集中させるべきと思います。

また、河野太郎前国家公務員制度担当大臣のリーダーシップで、サービス残業をなくしてちゃんと残業代を支払うように変わってきているので、優先度の低い仕事を官僚にやらせるといことは、税金から払う官僚の残業代が増えることになります。

国民が負担する行政コストの観点からも、必要性の高い仕事に集中させるべきと思います。

論点③官僚にメモを作らせないと議員は挨拶できないのか
SNS上には、挨拶も自分の言葉でできないのかという声もありました。

国会議員は、選出された選挙区を中心とした幅広い人たちと国政をつなぐのが仕事なので、その守備範囲はとても広いです。

国会議員が優秀だとしても、一人で全部の分野に精通して、なんでも話せるというのは難しいように思います。

やはり、支えるスタッフが必要だと僕は思います。

ただし、国会議員としての地元での活動や支援団体とのコミュニケーションを支えるスタッフは、本来は議員秘書ではないかと思います。議員秘書が足らなければ、議員秘書の体制をどうするかという話だと思います。

論点④ なぜ役所は断らないのか
SNS上には、このような意見もありました。

僕は、2つの理由があると思います。

1つは、大昔から慣例でやってきたからです。
何か、方針が出れば別ですが、日常的に来る個別案件の中で急に断るのは難しいということです。

もう一つは、政治家と官僚の関係性の問題です。

官僚(官庁)は大きな権限を持っていると思う方もたくさんいると思いますが、それは許認可や補助金の交付など国民に対してです。

官庁が勝手に権限を行使しないように、枠をはめるのが国民の代表者で構成される国会の役割です。

つまり、規制などを既定する法律や補助金などの予算は、全て国会の議決が必要になります。国会が認めた範囲で官僚は権限を行使するのです。

このことは、官僚側から見ると、自分たちが商品開発しても、国会の承認が得られなければ世の中に出せないということになります。

この関係性は、民間に例えるなら、重要な取引先と下請け企業の関係に似ているように思います。重要な取引先に切られたら下請け企業は仕事がもらえなくなったり、製品を売れなくなったりしてしまいます。多少の無理なお願いは、聞かざるを得ないということがあると思います。

この関係性も、そろそろ考えた方がよいように思っています。

官僚の活動は、すべて税金で賄われているわけですから、国会議員の部下というよりも、社会の共有財産として、どのように効果的で効率的な仕事ができるような環境を作っていくかを考えたいところです。

【まとめ】
以上のことから、地元や支援団体のイベントでの挨拶文作成については、大昔から慣例でやってきたことですが、今この段階で、しっかり線引きをした方がよいように思います。

僕自身は、役所は政策の内容やスタンスを説明するにとどめ、挨拶メモを作成するのは議員(+秘書)の仕事だと思いますが、皆さんはどうお考えでしょうか。

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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2021年11月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。