北京五輪の「外交的ボイコット」は広がるか

スポーツ競技と政治を混ぜこぜにするのは理念的には愚の骨頂かもしれません。しかし、政治家が政治屋という職業であり、かつ、ポピュリズムを求めるならば世紀の祭典である五輪を介して明白なスタンスの表明は自身のアピールには絶好のチャンスであります。

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バイデン大統領はその支持率が低迷し、副大統領のカマラ ハリス氏ともに2人セットで期待感が低迷する中、すでにアメリカ中間選挙が視野に入ってきました。こうなると政治屋として踏み込んだ活動が求められます。敵対する相手、共和党は北京五輪ボイコットを強く表明してきました。世論調査における共和党支持率も近年見ないほどの共和党優勢が伝えられる中、バイデン大統領としては中国を利用した政治活動という戦略は欠かせない展開であります。

バイデン氏が北京五輪の外交的ボイコットを検討すると発表したのはバイデン氏の意図するものではなかったような気がします。選手だけ派遣し、政府関係者は誰も参加しない、という選択肢は数多くあるオリンピックを利用した政治活動の選択肢としては中途半端感が極めて強いものです。本当に人権問題に怒りを感じているならば選手団の派遣もしないだろうし、選手そのものがそんな国で試合に出たくない、とボイコットをするでしょう。東京五輪が1年延期されたのもどちらかといえば選手からのコロナの不安の声がリードする形であったのは記憶に新しいところです。

バイデン大統領としては外交的ボイコットを成功裏に収めるにはどれだけ同盟国の支持を得られるか、であります。英国は今年の2月頃には「考えてもいない」(ジョンソン首相)でありましたが、ここにきて「検討か」と報じられています。オーストラリア、カナダなどがこれに続くのか、ここが注目でありますが、日本も微妙な立場に追い込まれています。

東京五輪の際に中国は終始、日本に協力的姿勢を見せ続けたのは北京五輪が半年後に予定され、外交的圧力がある中、日本の切り崩し策が必要不可欠であったからです。少なくとも中国は日本に刺激的なことを言うことをしばし控えるでしょう。

この中で林外相が中国の王毅外相との電話会談の際、「訪中の要請を受けた」ことを明らかにしました。林外相は閣議で検討していくことになります。日本の外相は訪中をこの2年しておらず、コミュニケーション不足になっていることと日中国交50周年を含め案件が山積していることを考えると私は林外相は行くのだろうと思います。

問題はそこで五輪に対してどのような結論を持ち帰るか、であります。訪中し、歓待されれば中国に対して強い態度が取れないのは自明であり、日本がアメリカとのシーソー外交をする中で厳しい判断を迫られるのは目に見えています。岸田総理は「日本は日本の判断」と述べていますが、コトはそう簡単でないことは十分にわかっているはずです。

プロテニス選手の彭帥さんと元副首相の張高麗氏との不倫問題、そして彭帥さんの消息不明問題も中国共産党には暗い影を落とします。「消息不明」は中国では年中起きている事態ですのでそのうち出てくると楽観視しています。むしろ、こんなことも政治問題になるようになるならば中国の情報統制への姿勢強化はより堅固になることでしょう。つまり、より閉じた社会を作るということです。

ではお前は北京五輪の外交ボイコットについてどう考えるのか、と言われると2つの切り口があると思います。あくまでも客観的に見てどうなるか、という点と主観的に見てどうすべきか、という点であります。

客観的推測は日本は選手団は送るのは当然で、政府レベルの開会式などへの出席は何らかの形で参加するとみています。首相は行かないにしても閣僚の誰かが行くことで落ち着くとみています。

主観的にもその流れでよいと思います。北京五輪の外交的ボイコットをする前に日本はまだ中国と膝詰め談判をしたわけではありません。中国の人権問題、外交問題、台湾問題など数多くの問題について政治的なガチンコの勝負をまずはすべきです。それを十分にしているとは思えない日本が変にアメリカの同調圧力に屈するのは日本の独自外交の放棄だと思います。岸田総理の言葉通り「日本は日本」という立場を貫き、政治のオリンピックの場で金メダルを取るべきであってスポーツのオリンピックに乗じるようでは日本の準備が十分ではない、とみています。

むしろバイデン氏の圧力はアメリカの国内政治事情によるところが強いわけで、ここはアメリカの足元を見るぐらいの堂々とした外交姿勢を見せてもらいたいところです。弱体化するアメリカを横目に外交的な独自性を持つことが憲法改正問題など日本が立ち上がるための前段になる、と私は思っております。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年11月23日の記事より転載させていただきました。