移民の前に少子化解決の議論を --- 筒井 和人

移民の前に少子化解決の議論をすべきである。

労働者不足の現状に対処するため移民の議論は必要だが、それは少子化解決の議論が十分になされ、その対策が十分にとられ、その対策の効果も踏まえた上で、少子化が解決するまでの補完的な対策として移民は位置付けられるべきである。

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我が国の問題は、少子化を戦略的問題と捉えていないことにある。欧米や中国は、少子化の戦略性を歴史的に認識しており、モーゲンソーやチャーチルなど、少子化が戦略的に国家にとって問題をもたらすことを説いている。中国は最近の少子化の顕在化に、習近平は即座に反応し、地価や塾などの少子化の原因の是正に乗り出している。

これに対し我が国は、少子化問題を失われた25年もの間放置してきた。我が国が少子化問題を戦略的問題と捉えていないからである。問題の重要性が認識されていない。安倍政権で一定の前進はあったが、十分というには程遠い。効果も殆ど出ていない。我が国は少子化が戦略的問題であるという認識そのものから改善をしなければならない。

少子化の原因は将来不安である。将来不安の原因は、社会システムの公平性劣化である。地価、塾依存教育、年金等世代間格差、非正規賃金等、失われた25年の間に進んだ機会の公平性劣化が原因である。少子化は社会システムの公平性劣化に対する国民の審判であり、少子化は社会の持続可能性についての未来からの警鐘である。少子化は貧困を将来に転嫁する民族のカニバリズムであり、民族の戦略の空洞化である。放置すれば日本衰退のスパイラルになってしまう。

少子化の原因である機会の公平性劣化は、失われた25年継続する、消費停滞、経済停滞の原因でもある。将来不安が少子化と消費停滞を誘発し継続している。公平性劣化を少子化で帳尻合わせし、機会の公平性劣化がリスクになり、将来不安が消費停滞に繋がっている。

これは日本に特異であり、失われた25年の間、他国には見られない消費停滞が継続し、他国では機能した量的緩和が機能せず、少子化まで発生している。機会の公平性劣化の烈度が大だからである。

今般の給付でも議論になっているが、機会の公平性劣化を放置してばらまき合戦をしても、将来不安は解消せず少子化も消費停滞も解決しない。先の10万円等累次の給付が実証している。他国では機能した量的緩和が機能しないのも同じことである。消費停滞は経済問題ではなく、社会システムの構造問題だからである。機会の公平性劣化の源流に遡り、機会公平性劣化自体を解決しないなら、失われた25年も日本の特異性も解決しない。

機会の公平性劣化の原因は、市場の失敗、国の放任、制度劣化放置、シルバー民主主義、既得権、合成の誤謬等である。解決のためには、国の関与、制度劣化是正、現在世代内再分配等がなされる必要がある。機会の公平性回復は、これらの措置でなされることからその性質上、基本的にカネはかからない。

地価は、東京一極集中是正のため、リニア沿線に首都移転、大学等福島、新潟移転を進める。費用は土地売却収入を充てれば、カネはかからない。

塾依存教育是正は、コロナで整備されたオンライン教育を活用する。カネはかからない。塾に行かなくとも不利にならない公教育を復活させる。教育機会均等は戦後改革の柱である。失うことの許されない価値である。

年金等世代間格差是正は、マイナンバー資産課税を導入し、子育て世代に再分配する。年長者、富裕層から再分配し、現在世代内再分配し、将来転嫁を是正する。財政健全化をもたらす。機会の公平性回復と財政健全化を両立させ、成長をもたらす。

非正規賃金は、子育てに優しい3号制度は維持し130万円の壁を廃止する。壁は賃金決定の自由を阻害している。壁廃止すればパート賃金等は上昇する。カネはかからない。

つまり、住、教育、世代、労働の機会の公平性回復にカネはかからない。

財務次官が述べたことは正しい。成長にカネはかからない。ばらまき合戦は不要。財政健全化と成長も、現在世代内再分配により両立する。

以上の通り、少子化解決は消費停滞解決、成長復活と重なる。今、最優先で議論されるべきは、機会の公平性回復による、少子化と消費停滞解決である。平成とは、社会経済の戦略空洞化である。社会経済の戦略再構築が、最優先で議論されなければならない。

その議論がなされ、的確な、少子化対策を策定し、その効果も踏まえながら、現状の労働者不足には移民で対応しながら、中長期的には、移民を減らしていくことが望ましい。

移民の前に少子化解決が最優先で議論されるべきであり、移民はあくまで、補完、臨時の措置であり、出生率回復による、問題の根本的解決を目指すべきである。少子化を解決し、民族の戦略が再構築されなければならない。

具体的には、こども庁が全てを解決する。

我が国が少子化を解決出来ない理由は、上述した通り、我が国は少子化を戦略的問題と認識していないこと、少子化の担当省庁が不明確なこと、少子化は原因が多省庁にまたがるクロスファンクショナルな問題で、我が国省庁はクロスファンクショナルな問題解決に弱点があること等である。

こども庁を設立し、少子化の戦略性を再確認し、こども庁を司令塔にクロスファンクショナルに問題解決に当たれば、少子化は解決出来る。少子化と同根の、消費停滞も解決出来る。少子化と消費停滞が解決すれば、年金の持続可能性劣化も解決する。こども庁が全てを解決する。

今、なされるべきは、移民の前に少子化解決である。

我が国が、失われた25年、少子化と消費停滞を放置したことは、戦略的問題である少子化を放置したことに起因する。少子化の戦略性を認識していれば、少子化は速やかに解決され、消費停滞も解決していたはずである。

中国は、先に述べた通り、少子化の戦略性を認識して、迅速に少子化解決に乗り出し、少子化の原因の源流自体の、地価、塾の解決に、真っ向から、取り組んでいる。我が国は、このような中国の姿勢は見習うべきである。中国の戦略性、行動の迅速さは見習わなければならない。我が国は安全保障のみならず、社会経済でも、中国に負けている。戦略の再構築が速やかになされる必要がある。

筒井 和人 
1957年生まれ。富山県出身。東大経済卒。1980年防衛庁入庁。2014年、技術研究本部副本部長で退職。現在、会社員。


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