今週のメルマガ前半部の紹介です。
つい先日、筆者の論説も収録されている以下の新書が発売されました。
日本人の給料 (宝島社新書)
宝島社
2021-11-10
筆者も含めて7人、色々な専門家が自分の知見に基づいて「日本人の給料はなぜ上がらないのか」という疑問について見解を述べています。
筆者は自分のパート以外は初見でしたが実に興味深い内容でしたね!
というのも、「日本人の給料はなぜ30年間上がっていないのか」という最大のミステリーに対し、各分野の専門家はこういう見方をしているのか、というのがくっきりとわかる内容になっているからです。
それは、そのまま各政党の政策にも影響することになるでしょう。
なぜ日本人の給料は上がらないのか。そして、それに対する各分野の専門家の答えは? いい機会なのでまとめておきましょう。
いろいろな立場にかかわらず識者の見方はほぼ一致
驚いたのは、各識者とも、内部留保の積み上げが問題であるという点でほぼ一致していることです。
「アベノミクス以降、大企業では内部留保がガツンと積みあがる一方で、中小企業は内部留保できるほど利益は出ていない」(北見昌朗・北見式賃金研究所所長)
「しかし、問題は内部留保なのです。内部留保を労働や資本などに投じれば潜在成長率は上がり、経済成長できるはずなのに、企業は財務基盤の強化に費やしてきただけです。いわば日本経済はフル稼働していないのです」(脇田成・東京都都立大教授)
「内部留保として積みあがってきた額とその間の資金の動向を見れば、内部留保は積み上がりすぎと言わざるを得ません」(神津里季生・前連合会長)
「金融危機が起きてリーマンショックも起きて、そのたびに企業は内部留保を積み増しました。利益が出ても人件費や設備投資に回さずに内部留保を積み増し、現在は過去最高の475兆円という莫大な金額になっています」(江田憲司・立憲民主党)
で、そうなってしまった原因については(本当は分かってる人もいるんでしょうけど)誰も言及していませんね。もちろん、ただ一人筆者だけは容赦なく明言していますが(苦笑)。筆者の論説の要旨は以下の通りです。
- 解雇も賃下げもできない終身雇用では経営者はおいそれと賃上げできないし、労組もそうした経営スタンスに全面協力。
- 90年代、40代以上の定期昇給世代の賃金を維持しつつ人件費総額を抑えるために若手の昇給を抑制したため、21世紀に賃金カーブが低下することは明らかだった。
- 会社は新しい事業を立ち上げるのではなく、既存の事業をやりくりすることで稼ごうとするので、経済の新陳代謝は進まない。結果、30年間ほとんど経済成長もせず給料も上がらない国になってしまった。
- 社会が消費税を中々引き上げずに結果的に社会保険料という形でサラリーマンに押し付けたことも大きい。
- 安倍政権の進めた70歳雇用により、この傾向はさらに強まるだろう。
内部留保は確かに過去最高水準にまで溜まってますけど、別に誰かが搾取してるんじゃなく、社会全体が企業に対して「何かあっても社員をクビにしないように賃上げしないで貯めとけよ」ってリクエストした結果なんですね、今の状況は。
実際、コロナ禍に際しアメリカの航空各社は万人単位でクビ切ってますけど日本はJALもANAも一人も正社員のクビは切っていませんから。
【参考リンク】米航空業界、再び大量解雇も アメリカンは1万3000人の恐れ
だから「内部留保に課税しろ」なんて言ってる共産党と連合が組むわけはないし、岸田さんの“賃上げ支援税制”もコケるのは確定しているわけです。
あ、たまに「コロナでも失業率低いんだから日本型雇用の勝利だ!」っていう痛い人がいるんですけど、それ単にもともと貰えるはずだった給料を会社に預けておいた分を貰ってるだけですから。
常に最悪の事態に備えて賃上げも投資もケチり続けた結果が失われた30年というわけです。
普段から貰えるだけ貰っておいて、不況時には政府に税金で助けてもらうというのが世界標準であり、合理的な考えだということは明らかでしょう。
■
以降、
各人の論説を個別に評価
本書が示唆する日本人の給料のこれから
Q: 「有利な条件で退職したいのですが……」
→A:「最後に言いたいことをいうくらいのスタンスでいいんじゃないでしょうか」
Q:「50歳で早期退職に応募すべきでしょうか?」
→A:「自分が選択した道こそが正しい道です」
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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2021年11月25日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。