北京冬季五輪に「外交ボイコット」を

第32回東京夏季五輪大会は中国武漢発の新型コロナウイルスの感染拡大下で開催された。ホスト国日本国内でも土壇場まで開催すべきか否かで議論があったが、開催を決定し、万全の防疫体制のもと大会は成功裏に終わった。東京五輪に参加した選手たちも貴重な体験に、「ありがとう」という感謝の言葉を残して帰国していった。

北京冬季五輪競技の会場を視察するバッハIOC会長(IOC公式サイトから)

来年は北京で第24回冬季五輪大会(2月4~20日)が開催される。コロナ感染の最初の発生地の中国で冬季五輪が初開催されるが、北京冬季大会を約2カ月後に控えた今日、欧米諸国を中心に、「中国共産党政権下で少数民族ウイグル人やチベット人の人権が弾圧され、法輪功信者たちは強制的に臓器を摘出されるなど、その非人道的な行為は目に余るものがある」として、北京冬季大会のボイコットを求める声が高まっている。

英国、カナダ、欧州連合(EU)の議会議員や、米国連邦議会の共和党・民主党議員の過半数がボイコットに賛成しているという。バイデン米大統領は北京冬季大会の開会式に米国の高官参加を見送る“外交ボイコット”を検討中という。同盟国の日本政府はどうだろうか。

中国側は、「人権問題はわが国の内政への干渉だ」と反発する一方、「スポーツの政治化を許すべきではない」と批判してきた。日本に対しては、「東京五輪大会の開催をわが国は一貫して支持してきた」と指摘、日本側に「恩義を忘れるな」といった脅しさえちらつかせてきている。それだけ中国政府が“外交ボイコット”が世界に広がることを恐れている証拠だろう。

五輪大会は夏季、冬季の区別なくスポーツの祭典で、サッカーのワールドカップに匹敵するインパクトを有している。同大会に参加するために世界各地でアスリートたちが長年、汗を流してトレーニングを重ねてきた。その選手たちにとって大会が開催されないということは非常に辛いことだろう。その意味で、大会をボイコットすることはやはり理想ではない。

一方、“外交ボイコット”は大会開会式に大統領、首相ら政府関係者が欠席するという制裁で、選手たちにとって影響が少ないだけに実行可能な選択肢だ。そのうえ、世界の耳目が集まるスポーツの祭典を自国の国家威信を高める機会と考えている中国共産党政権に明確なメッセージを送ることができる。

北京冬季大会への外交ボイコットを考えていた時、スイス放送協会のウェブサイト「スイス・インフォ」からニュースレター(12月1日)が送られてきた。中立国スイスも北京冬季五輪大会を外交ボイコットするべきか否かでハムレットにように悩んでいることを知った。

それによると、スイス下院の外交委員会メンバーを務めるファビアン・モリーナ下院議員(社会民主党)は、「誰もが中国の人権問題に対する懸念はそっちのけで試合を観戦している状況を想像して欲しい。人道に対する罪が問われている国で、今はお祭り騒ぎをしている場合ではない」と話し、選手だけが大会に参加し、国家元首や政府高官を派遣しない「外交的ボイコット」を支持している。また、ボイコットを訴える運動に参加するスイスのNGO「被抑圧民族協会(Society for Threatened Peoples, STP)」ベルン支部のクリストフ・ヴィドマー氏は、「国際的な反発がない限り、中国は(人権を)抑圧し続けるだろう」と語る。スイス連邦政府は他国の出方を見守り、口を閉ざしてきたという。

2008年の北京夏季五輪大会の時は、「五輪大会を通じて中国に民主主義の風を送り込むことが出来る」と人権団体も期待を寄せたが、習近平国家主席時代(2012年11月~)に入ってから少数民族の人権弾圧や宗教の自由は一層蹂躙されてきた。北京冬季五輪大会の開催で中国共産党政権の民主化を期待することはもはや妄想に過ぎないという声が聞かれる。「2008年の間違いを繰り返してはならない」といったところだろう。

冷戦時代、東西間の調停役を演じてきたスイスにとって、他国に先駆けて外交ボイコットは出来ない。小国スイスにとって、対中経済関係は無視できない。もちろん、人権問題も無視することはできない。まさにハムレットのような悩みだ。日本政府も案外、スイスと同じかもしれない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年12月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。