コロナ禍で悪化?不潔強迫の真実

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突然ですが、コロナ禍の影響で症状が悪化していると言われる心の問題をご存知ですか?それは「強迫性障害(Obsessive Compulsive Disorder)」です。

このコラムでは『精神科医が教えないプチ強迫性障害という「幸せ」 気になってやめられない「儀式」がある人の心理学(双葉社)』の発売を記念して、強迫性障害のあっと驚く魅惑の世界をシリーズでご紹介します。

強迫性障害は上手に付き合えば幸せにつながる要素もたくさんあるのですが、病態化が重いと生活が症状に侵食されてしまいます。自分らしく生きられないという悲劇も…。

悪い影響を受けないように、正しく知って備えましょう。

第1回目は不潔強迫です。

「汚れている!」と無意識に思い続ける

「汚い!」「まだ汚れている!」などの心配にとらわれて、手洗い、洗濯、入浴、掃除などを日々盛大に繰り広げるのが不潔強迫です。背景にあるのは「バイ菌が繁殖しているのではないか?」「病気になるのではないか?」「不潔なものが着いているのではないか?」という恐怖です。

人によって行動のパターンは異なりますが、洗っても洗っても汚れているような気がして、長々と手洗いを続けるという「手洗い(洗浄)強迫」が代表的なものの一つです。手洗い強迫は比較的古くから研究されていて、なかなか「ここまで洗ったから大丈夫」と思えないことが知られています。バイ菌は目に見えません。なので、一度心配のスイッチが入ってしまうと、「バイ菌はもう着いていない」と確認できないのでなかなか止められない…ということになります。

トイレの後も外出の後も大変!

トイレの後の手洗いも大変です。手が尿で汚れている気がして長々と洗うことになります。バイ菌や病気を怖がっているだけではなく、「臭くなるのではないか…」といった心配の場合もあります。全身が汚れている気がして、トイレごとにシャワーを浴びて…という方もいます。

外出先から戻るってからも大変です。持ち物は除菌クリーナーでキレイにして、自分もシャワーを浴びて…というパターンが多いようです。「外からの汚れを持ち込みたくない」という心理が働いていることが多いようです。「服も汚れている!」と感じてすべて着替える場合もあります。

多くの場合で除菌系の洗剤を盛大に使います。「除菌」で安心できそうなものですが、なかなか心配は払拭できないようです。ご家庭のダイナミズムの中で、家族にも同じようにするように強制する方もいるようです。

過剰な手洗いは逆効果

このような清潔の追求は逆効果な場合もあります。たとえば手を洗いすぎると免疫力のある皮膜がダメージを受けて逆にバイ菌が繁殖するリスクが高まります。ただ、この症状がある方にこのことを教えても、多くは無駄です。手を洗う感触などで「これでキレイになる」という安心を得てしまって、癖になるのでなかなか止められないのです。

気の毒なのですが、この症状がある方の多くは手荒れに悩まされています。手洗いを半分にするだけで随分と改善すると思われるのですが、難しいようです。

蛇口まで洗ってしまう場合も

手を洗うだけでなく手洗い前に触った蛇口にバイ菌が着いていることを心配するケースもあります。その場合は手を長々と洗った上に、さらに蛇口も丁寧に洗うことになります。手洗いにかかる時間が長くなり、この他の行動が制限されることは言うまでもありません。

洗濯に走る場合は、ちょっとしたことで服が「汚染された」ような気になって、洗濯物の量が2倍3倍に膨れ上がります。洗濯は服にとってはダメージ要因の一つです。時間を取られるだけでなく、お気に入りの服の寿命も短くなることでしょう。

除菌グッズが手放せない!

掃除に向かうパターンも手洗いや洗濯と同様です。家にはたくさんの除菌グッズが溢れ、ちょっとでも汚れた気がすると除菌グッズの出動です。外出でも除菌ができるウェットティッシュは手放せません。カバンが重くなろうとなんだろうと、必ず持ち歩きます。

床に落ちたものを触るのが怖い…というパターンもあります。例えば、駅の改札を通過するときに定期入れを床に落としたとします。そうすると、急いでいるときであっても除菌ウェットティッシュを取り出して、定期入れの周りを丁寧に拭き取ってやっとカバンにしまいます。

より重症になると…

ここまではまだまだ軽症の方です。もう少し重症になると公衆トイレを使えない、ドアノブや電車やバスの手すりに触るのも怖い…となってきます。誰がどう使ったか、触ったかわからないので、どれくらい不潔なのか、バイ菌がいるのかわからないからです。一般的に「わからない」は心配を呼ぶものですが、この心配からどんどん悪い方向への想像が膨らむのです。

こうなると外出も一苦労で、社会生活が大きく障害されます。ほぼほぼ常に「不潔ではないか?」と心配するだけで一日を終える事になってしまいます。「清潔である」ことはもちろん重要なことです。ただ、清潔を追求するあまり生活が障害されるのも考えものです。不便のない程度の追求にしておきたいですよね。

次回は確認強迫をご紹介します。

杉山 崇(脳心理科学者・神奈川大学教授)
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