「炎上するバカさせるバカ~負のネット言論史~」の著者である中川淳一郎氏は、ネット記者としてその黎明期から執筆を始め、現在は半分隠遁していると述べている。しかし、その影響力はいまだに大きいライターであり、思想家である。
中川氏は2009年に「ウェブはバカと暇人のもの」という名作も著している。今回はその系譜に連なる正統な日本ネット通史である。
本書はそういった意味で、膨大なネットユーザーがしこしこと記録した炎上の歴史の総括と言えよう。一体この人たちはなんの ためにこの記録をするのだろうか、とも思うが、炎上というものは人々の心をどこか揺さぶるものなのだろう。
中川氏は正確な引用などで、ネットの炎上の歴史を語っている。炎上の歴史を語るうえで、エポックメーキングとなる出来事は多々あるが、しっかりとネット上からの「エビデンス」を提示する。これだけの膨大なデータベースを作り上げるそのノウハウは、端倪すべからざるものがある。
本書の結論のひとつ(帯にもあるのでネタバレではないだろう)を言うと、ネットでの炎上は一般人には百害あって一利なしということだ。まれに炎上をスプリングボードにする猛者もいるが、とても一般人が模倣できるものではない。そして、豊富なエピソードでそのメカニズムを紐解いていく。原因と結果は見えにくいし、そのとき見えていたとしても忘れ去られてしまうが、その因果関係を分析し、提示していく。
そのエピソードは具体的で、語り口は軽妙洒脱である。DaiGo氏や張本勲氏の発言から、「若者の〇〇離れ」まで、「こんな炎上はたしかにあったなあ」「こんなことで炎上するのか」とそれだけで日本のネットの歴史を俯瞰した気になる。
SNSでは、スマイリーキクチ氏や木村花氏のような炎上では済まされない人権侵害も起きるようになってきた。2000年代の「集合知」「ウェブ2.0」のようなポジティブで牧歌的な捉え方はもはやできなくなってきている。
ネットの普及が進むにつれ、ネットが完全に「社会」と化した。そうしたことから、メディアの情報収集先がネットになり、ネットで展開される炎上や各種諍いがニュースになる。
では、私たちはSNSやネットとどのような距離を保っていけばよいか。それらは本書を読んでいただければ自ずと答えは見えてくるはずである。
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