北京五輪外交ボイコットの考察

私は日本のテレビニュースでも特に「国際」と称するジャンルのニュースを選ぶのが多いのは個人的趣味もありますが、国内に住んでいないので社会事件が肌身に伝わってこないこともあります。日本における国際ニュースではアメリカのニュースは思ったほど多くないし、偏りもあります。アメリカ発の報道の典型は株価とバイデン氏絡みでそれ以外の社会問題、アメリカ国内政治、経済や経営の詳報が伝わることは少なく、かつ、ワシントンとニューヨークという2拠点発の報道が主体です。

一方、数えたことはありませんが、中国関連の報道は本数では一番多い気がします。その典型が外交関係で中国外交部の報道官の嫌味たっぷりの発言を取り上げるケースが目立ちます。この中国外交部が放つ日本けん制発言の数々ですが、日本のメディアはこの中国側の発言を報じたままで日本側の対応や反論について報じることはあまりお見掛けしません。

申し訳ないのですが、特に官房長官が松野氏に代わってから氏のメディアへの露出度は下がっています。比較論になりますが、菅氏が官房長官であったときは時として首相並みに取り上げられていたことを思うと官房長官の仕事って何だろう、と改めて思います。汪文斌(おうぶんひん)、趙立堅(ちょうりつけん)、華春瑩(かしゅんえい)の3名、名前は思い出せないけれど顔を見ればわかるという人は多いと思います。私はフルネームで覚えていますが、松野さんのフルネームは知りません。

松野官房長官
NHKより

日本の報道は「相手がどう言ったか?」という反応を非常に気にする国民性を反映しています。だから中国の反応を伝える報道が多いのでしょう。例えばTBSの「サンデージャポン」はメディア取り上げ率が非常に高い番組で、放送された直後にはヤフーニュースあたりで出演者のコメントが人目を引くようにニュース配信されます。つまり、サンジャポのトピックスを取り上げるのではなく、その反応を取り上げている点において野次馬的で本質問題が置き去りになっているのです。

さて、そのようなマスコミのフィルターがかかる中、我々は2月に迫る北京五輪の行方について考えなくてはいけません。五輪を盛り上げるなら五輪に向けて頑張る選手たちを追った報道や予選の戦いぶりが報じられてもよいと思いますが、ほとんどお見掛けしません。多分ですが、五輪直前になって視聴率稼ぎで注目競技や注目選手にスポットライトが当たるのだろうと察します。近視眼的というか拝金的というか、淡泊というか、皆さんそれぞれに感じることはあるでしょう。

アメリカやカナダ、英国と違い、日本は中国と地政学的にも歴史的にも深い関係があり、短絡的な判断をしにくいところがあります。カナダがアメリカとの関係にいつも苦労し、英国がフランスとつかず離れずの関係にあるの同じです。では、日本がカナダとアメリカの関係に口を挟んだとすれば彼らは「お前の知ったことではない」というでしょう。英国とフランスについては「歴史的重みと今日の出来事を同じ天秤にかけることはできない」と述べるかもしれません。

北京五輪の外交的ボイコットをアメリカ、オーストラリア、英国、カナダが発表しました。アメリカは外交的ボイコットを他国に強要しないとしています。ニュージーランドはコロナを含めた自国の都合で閣僚を送り込みません。イタリアは次の冬季オリンピックがあるので閣僚を出します。フランスも検討中ですが、出すと思うし、ドイツも出すでしょう。ロシアはプーチン氏の出席が取りざたされています。親中国国家であるギリシャは出るし、インドは外交とスポーツは別物というスタンスを取ります。

では日本は、と言えば「他国の出方を見て」という流れです。自分の意見はないんかい?と思います。外交的独立をしているのであれば必ずしも風見鶏である必要はないのです。林外相の中国訪問について「中国が正式な招待状を出したことはない」との関係者の発言を紹介した(産経)とあります。中国はメンツの国ですので顔を潰されたと怒っているわけです。そもそも林さんがそんなこと、公表しなければよかったのにと思います。彼の失策でしょう。

間違っていけないことは外交で揉めるならばコミュニケーションをより活発にすることが最重要だという点です。ウクライナを巡りアメリカの国務長官とロシアの外務大臣がリアル会談を行い、バイデン氏とプーチン氏はオンラインで3時間もやり取りしています。これは西欧では一般的で政治家は紛争解決のために存在するのです。なのに、会談をしないという選択肢は基本的にはないのです。

日本は交渉下手過ぎるのです。例えば王毅外相と中国で会いたくなければ第三国で会談すればよいだけの話です。通常、悩ましい議案ある時は第三国を使うのが常とう手段です。その駆け引きはすべきでしょう。

では今日のテーマの五輪の外交的ボイコットを日本はすべきか、という点です。私個人の考えとしてはしなくてよいと思います。英米加豪とは一緒くたになれないのです。それに五輪で外交的ボイコットをしたら五輪後はどうするのか、ということを踏まえています。日中の外交を止めるのはテーゼではないのです。外交筋はあらゆるコミュニケーション手段を使い、日本のメッセージを伝え続けることが日本にとって必要なステップになります。室伏さんや山下さんを北京に送り込む、と早くアナウンスすべきだと思います。またオミクロンを理由に鎖国をしている日本において閣僚を派遣することはできない、としてしまえばよいと考えます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年12月10日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。