終身雇用と年功序列賃金は、日本の経済成長を生んだと考えられてきました。しかし、バブル崩壊後、企業を取り巻く環境は劇的に変化しました。城繫幸氏は、「日本人の給料 (宝島社新書)」のなかで、終身雇用と年功序列賃金が現在でも続いていることが、日本人の給料の下がり続ける原因だと分析しています。
日本人の給料が上がらない原因は、低成長が続いているにもかかわらず、終身雇用・年功序列賃金制を維持しているためです。人件費を削る必要が出てきたのに、解雇はできず、給料を下げることもできないために若手の昇給を抑える。それが続いて日本人の給料が上がらなくなったのです。
一部の人たちの人件費が聖域になっているために、全体として給与が下げ止まらないという結果になっているようです。とくに「若者の〇〇離れ」などと消費悪化の元凶と言われて久しいですが、若者は買うお金がないのです。原因は、上記の指摘が示す通りなのでしょう。
そもそも、終身雇用と年功序列賃金が特殊すぎる制度だという認識を持たねばなりません。高度経済成長は一般的に1960年代の年平均実質成長率が10%を超えていた時期を指しますが、それよりもバブル後の失われた30年間のほうがはるかに長くなってしまいました。世界を見渡せばこれは非常に特殊な仕組みであり、1980年代後半に日本経済がバブルを迎えた時にも言及されました。あの時、日本の経済は瞬間的に世界一になりましたが、それでも日本人の給料の水準は世界でトップテンあたりまでしか上がりませんでした。国の経済が世界一になれば、当然、給料の水準も世界一になると思っている他国の人々には不思議だったのです。
そして、企業の存続のために始めた早期退職制度が逆に企業の衰退を早めるというのは、なんとも皮肉なことです。
たとえば年収の3年分を上乗せする早期退職制度が提示されれば、最後の一押しとなる。問題は、優秀な人材が辞めてしまうことです。
みんな終身雇用は優しい制度だと思っていますが、ほんとうはちがうと思います。
終身雇用制は労働者の負担が大きい仕組みなのです。会社の業務命令の権限が強く、労働者は残業を強いられ、転勤を拒否することもできません。(中略)しかし、日本では簡単に解雇できないため、企業は繁忙期になれば労働者に残業を強いて、閑散期になれば残業を減らす。欧米諸国では雇用と解雇で調整しますが、日本では残業時間で雇用調整してきたのです。転勤も同様です。人が余っている事業所から人が足りない事業所へ転勤を命じて調整し、雇用を守ってきたのです。
終身雇用の崩壊と言われると、私たち年長世代から見ると、不安でたまらない状況に思えます。そういった中で、優秀な学生はどこへ行くかというと、もはや日本の大企業は見向きもされないようです。
今は、終身雇用制の大企業に入社して若い時に給料を抑えられても、先が見えません。優秀であれば会社に守ってもらう必要はなく、リスクを取って外資系とかスタートアップへ行くということなのでしょう。
そして、安定を求めれば逆に不安定となるという厳しい指摘は、これからの時代を生き抜くヒントになります。
日本の錚々たる大企業に入る人材を見てきましたが、仕事に対する希望はなく、安定が目的で入りましたという人がたくさんいるのです。こうした人材は何人集まっても、企業から見ればひと山いくら”の価値しかありません。
人生100年時代、現役世代で“逃げ切れる”人はおそらくほとんどいないでしょう。
自身のキャリア形成を見直すきっかけになる一冊です。
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