米国の駆逐艦に「イノウエ」という名がつけられたと報道されていた。太平洋戦争を経て、日米協力の象徴的な事象だ。日本語の奇襲攻撃というと聞こえはいいが、米国では闇討ちされたような印象だったので、真珠湾攻撃後、日系人は収容所に閉じ込められたという史実を知る人が少なくなった。
私がユタ大学に留学していた時にお世話になっていた日系人の方も、強制収容所に収容された経験があった。戦後も日本人に対する差別が激しかったようだ。
しかし、私がユタ大学に留学していた時には、「日本に対する尊敬」があった。戦後の焼け野原から立ち直り、東京オリンピックや大阪の万国博覧会で国際社会に復帰した日本はある意味でリスペクトされていた。1979年にはEzra F. Vogel 氏が『Japan as Number One: Lessons for America』 というタイトルの本を出版し、日本の技術力が世界中の注目を集めていた。
しかし、コロナ対策で日本の科学力の低さが露呈した。日本のメディアも科学的な思考力が低下しており、「コロナウイルス自滅説」を何も考えることなく報道していた。どう考えても、非科学的と思わないと。「日本の不思議」などと呑気なことを言い、理由を説明することを全くできない感染症ムラも、自らの科学力の無さを反省しようともしていない。
仮説などいくつか考えつくはずだし、仮説に基づいて検証を進めてこそ、科学なのだ。当然、科学がなければ、適切な対応ができるはずもない。T細胞免疫を調べる体制を整えて欲しいと願うばかりだ。
さらに、報道を聞くと、オミクロン株が感染しやすく、重症化率は高くないようだ。それなら、重大事に至らず、われわれの免疫力を高めてくれる。慎重な判断が必要だが、ようやく世界は「COVID-19の終焉の始まり」に差し掛かっていると言える。
ワクチンが行き届いていなくても、コロナウイルス陽性者数が日本と同じように減ってきている他のアジア諸国(インドネシアやバングラデシュ)の例を見れば、集団免疫の獲得と考えるのが科学的には合理的だ。何回も触れたが、免疫に関連する遺伝子群は多様性に富んでいる。いつまでも、欧米としか比較できない低科学力では、国は守れない。
コロナウイルスは風邪のウイルスで、これまでも流行期があったのから、われわれは少なからず、コロナウイルスに対する免疫力、特に、細胞免疫を持っているはずだ。日本を含め、PCR検査を徹底して行っていない国では、症状が出ない人や軽症の人が検査を受けないままに見過ごされている。
特に低量のウイルスに暴露されれば、症状もなく、免疫が高まることになる。コロナウイルスに晒された人の数は、実際の陽性確認者の十倍以上、あるいは、もっと多いのかもしれない。それであれば、今の現象は説明がつくのである。
「日本の不思議」が他国によって説明されれば、「不思議」ではなく、「日本の恥さらし」となる。残念だが、そんな日も遠くないような気がする。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2021年12月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。