桁違いに少ない感染者数で崩壊した医療制度:『医療崩壊 真犯人は誰だ』

アゴラブックレビュー

日本で医療崩壊は起きたのか。起きたのならば、多くの人がその原因を不思議に思っているだろう。

医療崩壊 真犯人は誰だ」の著者である鈴木亘は、医療崩壊は何度か起きていたことを指摘する。

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「入院の必要がある病状で、保健所などが入院を調整しているにもかかわらず、都道府県が確保した入院病床に入ることができない患者が大勢いること」、あるいは、「その患者が入院することなく、入院待機中に亡くなってしまうこと」を医療崩壊と言うのであれば、第5波までの間に、東京や大阪などの大都市部を中心に、何度かそのような状況が出現しています。

評者も含め、我が国の医療提供体制は、諸外国に比べて特に充実しているとかん違いしてきた。実際、日本は病床大国だったのである。

コロナ禍の前には、厚生労働省や日本医師会は、「世界に冠たる日本の医療」などと、我が国の医療提供体制を自画自賛してきました。それもそのはずで、我が国の医療機関の病床数は、諸外国に比べて突出して多いのです。まさに世界に冠たる「病床大国」と言って良いでしょう。

例えば、2019年時点で、日本の人口1000人当たり病床数は12.8と、先進各国(OECD加盟国)平均の4.4を大幅に上回っています。また、新型コロナ入院患者に直接関係する急性期病床数についても、やはり日本は人口1000人当たりで7.7と、先進各国(OECD加盟国)平均の3.5を遥かに凌駕しています。

まさに病床大国の面目躍如の堂々たる数字だ。

日本の医療機関の病床数は、全国で約160万床と言われています。病院の感染症病床(1888)と一般病床(88万7847)を合計した約90万床(88万9735床)が、潜在的にコロナ患者の入院に対応可能な病床数と考えられます。

それに対して、実際にコロナ患者の入院に使われた病床数は、ほんの一握りに過ぎないという。

例えば、第5波の感染者数のピークに近い2021年8月18日の入院確保病床数は3万7723床、重症者用の確保病床数は5530床です。全体(88万9735床)に対する割合は、それぞれ4.2%(入院確保病床)と0.6%(重傷者確保病床)という低さです。

確保病床は全体のわずか4%だったというから驚きである。

つまり、医療崩壊の直截的な原因は、病床自体は豊富に存在するのに、コロナ病床として利用できる割合が非常に少なかったというとだ。一部の医療機関の一部の病床が手一杯で、受け入れていない医療機関が数多く存在していたことがわかる。

2021年8月には、3万7723床と当初の倍になっているが、コロナ患者の増加ペースと比べてあまりに緩やかなのであった。

世界一の病床大国として、医療崩壊など全く無縁に思われていた日本が、世界的にみて桁違いに少ない感染者数や重症者数であるにもかかわらず、いとも簡単に医療崩壊の危機を起こしたことは、しっかりと検証され、記録され、記憶されるべきであろう。

経済をストップさせる政策を繰り返し取り、飲食業や観光業をはじめとした多くの国民に犠牲を強いてきた原因を、直視しなくては、この国のサスティナビリティは極めて低いものになる。

医療に限らずコロナ禍で噴出した問題は、我々は歪んだ制度を放置してきたことのツケを支払わされているのだ。

病床の問題以外にも、様々な角度で日本の医療体制の不備が検証され、その対案も示されている。コロナ禍における医療崩壊の危機の真因に迫った一冊である。

Pixelci/iStock