以前に、超過死亡増加とコロナワクチンとの関係について考察しました。超過死亡については、多くの人により議論されています。ただし、その概念が間違って理解されていたり、グラフの解釈が間違っていたりすることが散見されます。実は、以前の私自身の解説においても、超過死亡数の計算が不適切でした。自戒の念を込めて、再度この問題に取り組むことにしました。
このグラフは、人口動態調査の速報のグラフです。超過死亡の説明で、時々使用されています。
ただし、このグラフの意味が、しばしば誤解されています。
このグラフは、超過死亡を示しているわけではありません。前年と比べて死亡者が増加していることを示しているだけです。超過死亡とは、過去数年と比較して、死亡者が増加しているかどうかを示す指標です。今年と去年の比較と、今年と過去数年の比較とでは、意味するところが大きく異なります。
超過死亡数は、国立感染症研究所のダッシュボードより取得できます。
国立感染症研究所が公開している超過死亡のダッシュボードには、週毎と累積の2種類があります。累積のグラフは、特定の期間の超過死亡数を調べるのに便利ですが、多くの人がデータの読み方を間違えています。
多くの週において、観測死亡数は予測死亡数より少なく、2020年の年間の超過死亡数はマイナスであることが、週毎のグラフより読み取れます。
累積のグラフで、2020年の年間の超過死亡数を調べてみます。グラフでは、超過死亡数は、1760~17058人と示されています。2020年は、週毎のグラフより超過死亡数はマイナスと判明していますので、正しい数値とは考えられません。
次に、2020年の過少死亡数を見てみます。過少死亡数は、6344人~53550人となっています。超過死亡数はプラスですが、過少死亡数もプラスとは何を意味するのか、頭の中が混乱してきます。
その答えは、
[一般的意味の超過死亡数]=[累積グラフの超過死亡数]-[累積グラフの過少死亡数]
ということです。
このように考えますと、2020年の超過死亡数は、「-4,584~-36,492人」となり、週毎のグラフに矛盾しなくなります。
まだ何か釈然としないという人が多いと思いますので、説明を続けます。
週毎のグラフと累積のグラフの関係を、詳しく見てみていきます。
2021年4月第1週愛知県の超過死亡数が、「-72~0」であることが示されています。同様にして、第2週~4週の超過死亡数を取得できます。
2021年4月愛知県の累積の超過死亡数が、「0~65」であることが示されています。
2021年4月愛知県の累積の過少死亡数が、「5~171」であることが示されています。
データを表にまとめてみました。週毎の超過死亡数の上限値を単純に合計しますと60となり、累積の超過死亡数上限値の65と一致しません。週毎の-5を計算に含めないと65となり、累積と一致します。つまり、累積の超過死亡数上限値は、週毎の超過死亡数上限値のプラスの数値のみを合計しているわけです。累積の過少死亡数上限値は、週毎の超過死亡数下限値のマイナスの数値のみを合計した値となります。累積の超過死亡数下限値は、週毎の超過死亡数下限値のプラスの数値のみを合計しています。累積の過少死亡数下限値は、週毎の超過死亡数上限値のマイナスの数値のみを合計した値となります。
文章で説明しますと、複雑怪奇です。理解しやすいように、表においては、対応する数値を同じ色に設定してみました。文章を読んでから、表を見直すと理解しやすいと思います。
さて、頭の回転が速い人は、奇妙なことに気づいたと思います。
この表から4月愛知県の超過死亡数を計算してみます。
週毎のグラフよりの超過死亡数:-171~60
累積のグラフよりの超過死亡数:-106~-5
数値が大きくずれています。累積は週毎の単純な加算ではないため、週毎の合計とは一致しないのです。
では、どちらの数値が月の超過死亡数として適切なのか?
この問題と解く前に、超過死亡数の計算方法を確認しておきます。国立感染症研究所のWebサイトより引用します。理解しやすいように、一部用語を改変しています。
[超過死亡数上限]=[観測死亡数]-[予測死亡数]
[超過死亡数下限]=[観測死亡数]-[95%予測区間上限]
[過少死亡数上限]=[予測死亡数]-[観測死亡数]
[過少死亡数下限]=[95%予測区間下限]-[観測死亡数]
[超過死亡数下限]と[過少死亡数下限]は、値がマイナスとなった時には、ゼロとします。「95%予測区間」は、「95%信頼区間」に類似した概念です。 正確な解釈ではありませんが、実際の値は、この予測区間に95%の確率で含まれることを意味します。 厳密な解釈については専門書を参照してください。
超過死亡数を、下限値~上限値という区間で提示しているのは、最適な超過死亡数の計算方法について、専門家の間でも結論がでていないためです。国立感染症研究所では、「実際の超過死亡数はこの範囲内に含まれるだろう」と解説しています。
改めて、4月の愛知県の表を見てみます。週毎2週の「-5」は、[過少死亡数下限]に相当します。この数値は、本来は表の左側に配置されるべき数値です。数値がマイナスの時は、左右逆に配置されるべきなのです。その法則で、配置し直してみます。
この配置し直した表で、週毎と累積の関係が明確になったと思います。累積の超過死亡数はプラスの数値のみの合計であり、過少死亡数はマイナスの数値のみの合計なのです。この表で計算しますと、週毎の超過死亡数も、累積のそれも、「-106~-5」となり一致します。したがって、先ほどの問いの答えは、「累積のグラフよりの超過死亡数が正しい」ということになります。週毎のグラフは、超過死亡数の経週変化を確認するためのグラフであり、各週の超過死亡数を単純に合計することは不適切なのです。
次に、「各県の超過死亡数」と「日本(全県)の超過死亡数」との関係を考えてみます。累積の場合は、「各県の超過死亡数」の合計が「日本の超過死亡数」に一致するのに対して、週毎の場合は、「各県の超過死亡数」の合計が「日本の超過死亡数」に一致しません。
週毎の日本(全県)の超過死亡数の計算は、各県各週の死亡者数、予想死亡者数、予測閾値上限値と下限値を合計して、その合計値より超過死亡数を計算しています。予想死亡者数などの基礎データも公開されています。基礎データをダウンロードして、自分で実際に計算してみますと、どのような集計がなされているのかが、よく理解できるようになります。
集計方法が異なるため、週毎の日本(全県)の月の超過死亡数は、県別の時のように数値を配置し直しても、累計の日本(全県)の月の超過死亡数とは、完全に一致することはありません。
まとめ
- 週毎のグラフは、超過死亡数の経週変化を確認するためのグラフであり、
各週の超過死亡数を合計することは不適切である。 - 累積のグラフは、特定の期間の超過死亡数を取得するために使用する。
- 累積グラフの超過死亡数は、観測死亡数より予測死亡数を引いた時、プラスの数値となった時のみの合計であり、マイナスの数値となることはない。
- 超過死亡数は、グラフの超過死亡数よりグラフの過少死亡数を引いた数値である。
以上で前編は終了です。
中編では、過去にマスコミで報道された超過死亡数が間違っていた可能性、国立感染症研究所が超過死亡数と過少死亡数に分けて集計している理由について考えてみる予定です。
(補足)
海外のWebサイトでは、前年よりの増加分を超過死亡としている場合があります。したがって、前年よりの増加分を超過死亡とすることは完全な間違いとは言えません。ただし、その定義は日本では一般的ではありません。
(中編へつづく)