NHK以下、各局で活躍中の小谷哲男教授(明海大学)が、こうツイートした。
私も「噂の記事」を読んでみた。問題の記事は、日経編集委員の署名記事。『脅威高まり「専守防衛」拡大』と、結論ありきのサブタイトルがついている。冒頭こう書き出す。
中国や北朝鮮のミサイル開発が進んでいます。緊張や脅威の高まりに備え、政府は敵の基地などを攻撃する装備を持つかどうか検討を始めました。実現すれば撃たれる前にたたくことになるため、憲法に基づく「専守防衛」の範囲が拡大する可能性があります。
先月に続き、村野将フェロー(米ハドソン研究所)のツイートを借りよう。
そのとおり。この日経編集委員は、自衛官を「机のハサミで突然同僚を刺す」ようなタイプだとでも考えているのだろうか。
冒頭に続く、以下の部分も大間違い。
敵基地攻撃は自衛権に含まれ国際法上、合法です。しかし、日本には国際紛争の解決手段としては、戦争や武力の行使を放棄するとした憲法9条があります。防衛政策は専守防衛を基本とし、自衛隊の活動や兵器は自衛のための必要最小限度とされています。
このため敵基地攻撃は法的に可能としながらも、実行に必要な兵器は持たずにきました。相手の国土に甚大な打撃を与える攻撃型空母、長距離ミサイル、長距離爆撃機は自衛の範囲を超えるとされています。(下線は潮・以下同)
再び、村野フェローのツイートを借りよう。
さらに言えば、「長距離爆撃機」ではなく「長距離戦略爆撃機」が正しい。それが証拠に、「防衛白書」にも、こう明記されている。
個々の兵器のうちでも、性能上専ら相手国国土の壊滅的な破壊のためにのみ用いられる、いわゆる攻撃的兵器を保有することは、直ちに自衛のための必要最小限度の範囲を超えることとなるため、いかなる場合にも許されない。例えば、大陸間弾道ミサイル(ICBM:Intercontinental Ballistic Missile)、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母の保有は許されないと考えている。
編集委員の単純な勘違いではない。なぜなら、問題の記事後段で、こうも書いたからだ。
敵基地攻撃では必要最小限度を超えるとされてきた長距離ミサイルの導入を検討します。認められれば、集団的自衛権や空母のような艦船に続き、専守防衛の範囲が広がります。
もはや確信犯とみなしてよかろう。「長距離ミサイル」ではなく、正しくは「スタンド・オフ・ミサイル」であり、導入する理由も「敵基地攻撃」ではなく、以下のとおり。
レーダーの覆域や対空火器の射程が飛躍的に拡大した結果、現状では、自衛隊の航空機は、これらの脅威の及ぶ範囲内に入って対応せざるを得なくなっています。スタンド・オフ・ミサイルの導入によって、このような脅威の及ぶ範囲の外からの対処が可能となります。この結果、隊員の安全を確保しつつ、侵攻部隊に対処することが可能となります。(中略)あくまでも相手から武力攻撃を受けたときに、これを排除するために必要なものであり、自衛のための必要最小限度の装備品です。(防衛白書)
論拠を明示せず、「専守防衛の範囲が広がります」と断定するのは、低俗な陰謀論に等しい。記事の「間違い」は以上に、留まらない。
米軍の護衛で自衛隊が武力を使えば集団的自衛権の行使にあたります。かつて日本政府は集団的自衛権は有しているものの、その行使は自衛の範囲を超えるとして認めていませんでした。米軍支援のため、憲法解釈を2015年に変え、日本の存立に関わる事態では行使を認めました。
みたび、村野フェローのツイートを借りよう。
これも、そのとおり。さらに言えば、「米軍支援のため」に、憲法解釈を変えたわけではない。米軍を支援できる重要影響事態法は、良くも悪くも、旧周辺事態法から、ほぼ変わらなかった。「憲法解釈を変えた」のは「存立危機事態」にかかわる部分であり、「日本の存立に関わる事態」ではない。正しくは「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」(防衛白書)である。それでは新聞記事として長すぎるというなら、せめて「存立危機事態」と書くべきであろう。
最後にいま一度、村野フェローのツイートを借りよう。
すべて、そのとおり。なるほど「間違いだらけ」(小谷教授)ではないか。
日本を代表する安保論客両雄から、ここまで言われたのだ。日経新聞は、どうするのか。もし、頬かむりを決め込むなら、フジテレビと同罪だ(先月投稿参照)。