留学生からみた日本の「水際対策の延長」 --- 李・ユハ

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私は韓国国籍で、2017年から2019年まで日本の大学に留学した後、兵役のために韓国に一時帰国し、コロナ禍により兵役を除隊したにも関わらず日本の大学に戻れなくなった者です。

私は当初、コロナ禍以降新しく設置された「レジデンストラック」制度を利用して2021年3月末に渡日する予定でした。そのため、日本現地の住居も契約し帰国する友人から家財道具も譲ってもらうなど様々な準備を進めていました。

しかし、日本国外務省に査証(VISA)を申請する際に必要な日本国法務省の在留資格認定証明書(CoE)を去年年末に申請し、待機していたところコロナの再拡散による当時菅政権の全世界対象外国人新規入国禁止の影響で、3月に日本現地の大学に戻る予定であった私の計画は余儀なく中止されてしまいました。

最初は、当時日本に発令されていた「緊急事態宣言」が解除されればすぐ入国出来ると思っていました。何故なら2021年1月13日の記者会見で菅首相は、レジデンストラックを「緊急事態宣言が発令されている間、一時停止」としながらも、「レジデンストラックに合意している11か国からの入国者に変異株の感染が確認された事例はない」と説明していたからです。

しかし、そのような期待は間違いでした。

日本で緊急事態宣言が解除された後にも、留学生を含む外国人の新規入国禁止措置は「当面の間」という表現にすり替えられ、その後も何ら期限設定なく継続されたのです。その間、日本ではオリンピックやパラリンピックが開催され、ライブのために来日する外国人DJですら通常より遥かに短いたった3日間の隔離措置で入国しました。

オリンピックが閉幕したあと、日本政府は内外に「安心安全な大会を開催できた」と誇らしく広報していました。オリンピック開催のため何万人ものアスリートやその関係者が入国したにもかかわらず、感染状況への影響は限定的だったのとのことです。

しかし、当時いつ入国できるか目途も立たない中で入国を待っていた私からすると、それは外国人に対する欺瞞にしか思えなかったのです。ここまで大勢の外国人が入国出来る中でも感染状況をコントロールできたのであれば、オリンピックのために一時的に来日するアスリートより遥かに長期間にわたって日本に滞在しながら日本との関わりを持つ外国人留学生の入国は何故許されないのか、非常に疑問に思いました。

オリンピックが「成功的」に閉幕した後は、日本の与党である自民党の総裁選挙がありました。現首相である岸田氏は当時、SNS上で「#岸田BOX」というハッシュタグを拡散させ、様々な意見を聞こうとする姿勢を見せてくれました。その#岸田BOXでは、日本に入国できなく困っている多くの外国人留学生も声を上げた結果、岸田氏本人がYouTubeチャンネルにて日本に入国出来なくて困っている外国人について言及することにもなりました。当時前向きな岸田氏の姿勢に喜ぶ留学生がかなりいたことを今でも覚えています。

岸田氏が自民党の新総裁になった次には早速衆議院選挙でした。選挙では、多くの政党が留学生に関する公約を掲げていました。そして選挙結果、自公連立が議席を守り「岸田政権」は問題なく続くことになりました。

しかし選挙結果より私が驚いたのは、選挙は終了したすぐ翌日に「外国人新規入国再開」について日本の各メディアから報道され始めたということです。やっと入国出来るという安心感もありましたが、あまりにも露骨的に選挙を意識していたかのような印象で唖然としました。

しかしその「外国人新規入国再開」措置(いわゆる審査済証制度)の蓋を開けてみると、それは相当期待外れなものでした。膨大な書類提出、煩雑な手続きに加え、留学生の場合在留資格認定証明書の発給時期で入国時期が指定されるため、多くの留学生は2021年年内に入国できないことが判明したのです。さらに、留学生以外の内定者などは入国時期の指定がなく、日本政府が何を重視しているのかとても露骨的な措置でもあると思いました。

当時私を含めた多くの留学生は、「待機している間に新変異株が出現したらまた入国できなくなるのでは」と心配していました。

そして、それは現実になってしまいました。

11月末に新しい変異株である「オミクロン」の登場により、新しい外国人新規入国制度も早速中止されてしまったのです。新変異の出現により、日本で「リベラル」を自負しているという立憲民主党ですら、拡散国からの「再入国」ですら禁止するように政府に意見を提出している状況を見て唖然とするばかりでした。しかし、岸田首相を含めて文部科学相など多くの政府閣僚が今回の措置を12月31日までとする「異例」「臨時」「緊急避難的」な措置だと説明していることで少しながら安心していました。

しかし、それに安心していた私は甘すぎました。

12月21日19時、岸田首相が記者会見にて全世界対象外国人新規入国禁止措置を年明け以降にも「当面の間」延長すると発表したのです。

岸田首相は、記者会見の中で「G7の中では最も厳し措置を取っている」と誇らしく語っていました。しかし、それは逆にいうと「G7では日本だけ」ということにもなります。実際、日本人は日本からG7やG7ではない韓国や台湾にすら様々な防疫措置が付いているとはいえ問題なく海外留学することが出来ます。

それに対して、日本は全世界から留学生を含めて外国人の全ての新規入国を一切断っているのです。日本は日本、海外は海外とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。しかし日本以外のG7や韓国、台湾が外国人留学生を受け入れているのは、各国がそれぞれ防疫上のリスクを負担しながらも日本からの留学生を含める外国人留学生を受け入れてるということです。にもかかわらず日本だけが外国人留学生を一方的に受け入れないというのは、日本だけリスクを負担することなく国際社会にフリーライドしたい、自国民の留学生は送り出したいと言っているのと同然です。

少し話を戻しますが、11月8日から25日のたった17日の間に日本が新しい入国制度を通じて受け入れた外国人は228人。その中で留学生はたった3人でした。そして、日本国民の支持は9割に近いものでした。

日本人学生は海外留学に送り出しながらも外国人留学生の入国は頑なに断る、日本人の帰国や日本に既に滞在している外国人の再入国は許しながらもなぜか外国人の「新規入国」だけ厳しく制限するといった非科学で恣意的、差別的な政策にも関わらず多くの日本人はそれを支持しているのです。それに応じているかのように、特に欧米を中心に留学先を日本から韓国に変更する留学生も多く見られています。

しかし、果たして日本の世論は「政府の入国制限により多くの外国人留学生が日本から韓国などに留学先を変更することによって、今後国際社会において日本のプレゼンスが低下することを心配していますか?」という質問にも9割近く「心配しない」と答えるのでしょうか。日本政府の入国制限措置の問題点を、各メディアももう少しはっきり伝えてほしいものです。

その中でも矛盾しているのは、外国人の新規入国長期間にわたり禁止しながらも、新規入国する外国人のビザ申請に必要な在留資格認定証明書の発給は現在でも継続されているということです。これを国家単位の詐欺と呼ばずなんと呼ぶのでしょうか? 10月時点で在留資格認定証明書が交付されたにも関わらず日本に入国できていない外国人は全世界に約37万人いると推定されているのです。

長期にわたり何の告知や案内もなく多くの外国人の足を止めている形になり、日本の信用が落ちているとも言えます。

最後に、私個人の話です。私はコロナ禍以前、兵役のため韓国に一時帰国する前の2017年から2019年初めまで、日本で「差別された」と感じることは一回もありませんでした(単に私が気付かなかっただけなのかもしれませんが)。

差別どころか、私は当時日本でたくさんいい経験をしてたくさんの素敵な人々に出会うことが出来たと思っています。私が日本を留学先に選んだのは、日本で高度に発達しているある産業の作り手になりたいという夢があったのと、何よりも日本が好きだったからです。そして、日本での生活を経験してからもそのような気持ちはますます強くなりました。

しかし、コロナ禍以降全てが変わりました。

外から見た日本は、コロナ予防のため「外国人と食事するな」と役所が平然と広報する、非科学的で不公平、恣意的で差別的な入国政策を行っている、それを大多数の国民が支持する排他的な国家に見えるようになったのです。

でも、私は昨年末に契約して以来一回も行ったことすらない部屋の家賃を月々払い続けて、日本現地で対面で授業を受ける学生と同額の学費を払いながらもオンラインのみの授業を聞いて、先行きが全く見えず、不安ではありますが何とか就職活動と卒業の準備を進めています。それは、いくらコロナ禍により日本の排他的な面が明らかになったとしても、以前日本にいた頃のたくさんのいい経験と素敵な人々への記憶、期待がまだ残っているからです。

私のこのような記憶、期待は間違いだったのでしょうか?

李・ユハ
日本の大学に在籍している外国人留学生。渡日のための在留資格認定証明書をもらったまま入国制限により1年近く日本に入国出来ずに母国にて待機中。


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