オミクロン株は新型コロナ対策の救世主になるのか

MF3d/iStock

新型コロナの変異種としてオミクロン株が見つかり、その驚異的な感染力から各国の警戒が高まった。オミクロン株についてはまだわからないことも多いが、今までに得られた情報(特に南アフリカと英国から)に基づき、あまり語られない「楽観シナリオ」を描いてみた。

1. 今まで報じられた特徴のまとめ

① 今までの変異株より格段に多い変異の数
一昨年末に中国の武漢で発見されて感染爆発が起こった新型コロナ(ウイルス名:SARS-CoV-2、感染症名:COVID-19)はその後多くの変異を生んだが、今回のオミクロン株はその変異数が非常に多いのが特徴である。ヒトの細胞への侵入をつかさどる「スパイクタンパク質」の部分だけでも30か所以上の変異がある。

② 感染力が非常に強い
オミクロン株の感染が急速に拡大している英国のインペリアルカレッジロンドンの発表した研究では、オミクロン株の感染力は2日で倍増するという非常に高いもので従来で最も感染力が高いと言われていたデルタ株の数倍にもなる。

③ オミクロン株の感染による症状は軽い
オミクロン株を発見した南アフリカは、各国が一斉に南アからの人流を制限する措置を取ったことに驚き、オミクロン株の症状が軽いとの発表を始めた。

もともとオミクロン株の発見につながったのは南アフリカ医師会の会長の「Dr. Angelique Coetzee」が患者の症状を語った。2~3日間の強い倦怠感や頭痛、体の痛みが中心でそれも長引かずに収まる。まれに喉の痛みや咳の症状が出るが、デルタ株が引き起こす血中酸素濃度の低下や更に重症化の症状が見られない。

彼女は南アで支配的な(dominant)デルタ株の症状に比べてあまりに軽いので新たな変異種ではないかと気がついたと言う。

2.数字から見るオミクロン株

① 変異数 
オミクロン株ウイルスのスパイクたんぱく質部分の変異数。下の図を見ていただければ一目瞭然だろう。

infoのLinage Comparisonのページから一部抜粋

② 感染力の強さ
一方で南アでは感染者の急減がすでに始まっている可能性がある。グラフを見てもらえばわかる通り、それ以前のデルタ株による感染爆発に比べても急速な立ち上がりをしていることが分かる。

一方で急速な感染爆発からわずか三週間少しで「早くも感染者数の増加のピーク」を迎えて急激な少を見せている事にも注目。

南アフリカにおける新型コロナ患者の推移
Our World in Dataのホームページ上で著者作成

③ 他の変異種の駆逐
南アフリカにおけるデルタ株の割合を見ると、オミクロン株が拡大し始めてから急速に勢力を失い、現在ほぼ南アフリカから駆逐されている。

南アにおけるデルタ株の割合
Our World in Dataのホームページ上で著者作成

④ 症状の深刻度はそれほど高くない
もともと南アフリカでオミクロン株が発見されたのは新型コロナウイルスによる入院患者の一部が非常に症状が軽いことに注目した「南アフリカ医師協会の会長」の指摘からだった。

最近の南アフリカでのオミクロンとデルタの患者の入院率が11倍も違うことが研究によって明らかになっている。

medRxivに掲載された南アの研究グループの結果をDaily Mail紙がグラフ化したもの

下のグラフは南アフリカにおける新型コロナの死者の推移だが、デルタ株での 大きなピークが今年の夏に来てから11月にかけて徐々に下がり、オミクロン株がデルタを駆逐し始めた11月はじめからも横ばいを続けている。感染者がデルタによるピークを超えて増えたにも関わらず増える様子が今のところない。

南アにおける新型コロナによる死者数の推移
Our World in Dataを使い著者作成

またアメリカでのコロナ対策の最高責任者のファウチ博士も「オミクロン株は重症化の度合いは低いようだ」(CNN等)と発言している。

更にWHO(世界保健機構)も「ヨーロッパからの報告ではオミクロン株は無症状か軽症である」としている。ただしどちらも「まだデータが不足」と付け加えている。

3.数字から導きられる最も楽観的シナリオ

以上の数字から最も楽観的なシナリオを描いてみた。

  • オミクロン株はデルタなどの重症者や死者を多く生み出す危険な変異種を駆逐する。
  • 一方でオミクロン株は症状が軽く、重症者や死者につながる確率は他の変異種よりかなり低い。
  • 結果としてオミクロン株が広がれば、新型コロナは今までの「季節性インフルエンザ」並になり、人類との共存が可能になる、またはオミクロン株は感染爆発も急速だが急減する可能性もある。

4.結論

オミクロン株に関しては最大限の注意を払うべきであるが、一方では「楽観シナリオ」が実現した場合の「経済復興」についても事前に十分に検討しておくべきと考える。

【留意事項】

  • 新型コロナは日々状況が変わり、変異も激しいので現在までの傾向が今後も楽観シナリオどおりに進むとは限らない。
  • 著者は「感染症の専門家ではない」ので上記の推論はあくまで数字による情報に依存していることに留意が必要。
  • いずれにしろオミクロン株に関する十分な情報が得られるまでは「最大限の警戒と感染拡大防止策が必要」