コロナ禍の影響で症状が悪化していると言われている強迫性障害(Obsessive Compulsive Disorder)。
『精神科医が教えないプチ強迫性障害という「幸せ」 気になってやめられない「儀式」がある人の心理学(双葉社)』
発売直後からjiji.comやBIBLOBEニュースなどで取り上げていただきました。
また、このタイトルにも関わらず、精神科医で依存症の権威、松本俊彦先生からご推薦もいただきました。
知識人の集まるここアゴラでは、発売を記念して本に書ききれなかった強迫性障害のあっと驚く魅惑の世界をシリーズでご紹介しています。
強迫性障害は誰でもなりえますが、幸せにつながる要素もたくさんあります。ただ、病態化が重いと自分らしく生きられないという悲劇も…。
悪い影響を受けないように、正しく知って備えましょう。
第3回目はこの時期に陥りがちな縁起強迫です。
漠然とした「なにかの呪い」で悪いことが起こりそうな予感
「祝い事は仏滅の日を避ける」、「靴は必ず右(または左)から履くと決めている」、「試験の前日には必ずトンカツを食べる」、「遠回りでもお墓の前を通る道は避ける」などなど、決められた縁起を担がないと不思議な力が働いて悪いことが起こりそうな予感に囚われるのが縁起強迫です。
もちろん、縁起は文化の一つですから、「楽しんでやっている」、「願掛けのつもりでやっている」という場合は縁起強迫ではありません。科学では説明できず、合理的とも思えないことなのに、神仏に祈願したり、成功した先輩(または恩師)の愛用品を大事に使う、といったことは、私たちの生活のなかでよく見られることです。
神頼みや成功した人を真似る(同一化)のは一種の期待をもたらします。期待は私たちの迷いを無くし、結果的に成功しやすくなることはさまざまな心理学研究でも明らかです。縁起を担ぐことそのものは強迫性障害ではありません。
しかし、「縁起を担がないと大変なことになる!」と本来の目的を見失って縁起にこだわり始めると、ちょっと違ってきます。心配払拭第一主義のプチ強迫性障害の領域に入ってしまうのです。
神にすがりたい気持ちが暴走して不安になる
縁起強迫に陥る人は、どうにもならない辛い思いをしてきた方に比較的多いと言われています。自分では何もできない苦しさの中で神のような超越的存在に救いを求めることだけが安心を得られる手段だったのです。超越的存在を信じることで、不思議な力に守られているような気がして心安らかにいられるのです。
安心が得られるのは良いことなのですが、この経験を繰り返しているうちに超越的存在に精神的に依存するようになると良いことばかりではなくなります。合理的な日常が蝕まれてしまうからです。
徐々に重くなるプロセスでは、まず何かの理由で不安が高まることから始まります。そして、いつも当たり前にしていたことに「これで良いのかな?」「罰が当たらないかな?」と心配になります。
不思議な力による「守り」を失いたくない
たとえば、「いつもと違う道を通ったら超越的存在が支えてくれているなにかの秩序が崩れてしまわないかな?」「いつも神社の前を素通りしていたけど、神様に失礼じゃないかな?」などと心配になってくるのです。安心の拠り所である超越的存在に見限られたら大変です。
そこで、「毎日、同じ道を通らないと何か悪いことが起こる」、「神社の前を通ったら必ずお参りしないと祟りがある」と、このことに躍起になってしまうと、立派なプチ強迫性障害です。
この他にも「(仏滅など)縁起の悪い日に自分や家族の持ち物を捨てると不幸を招く」と思い込んで自治体で定めたゴミ出しの日にゴミを出せない、「死」や「苦」などの縁起の悪い文字を見てしまったら「慶」や「喜」など縁起の良い文字で打ち消さないといけない、など、さまざまな縁起の担ぎ方があります。
いずれにしても、漠然とした見えない超越的な不思議な力による「守り」を失うことを恐れることが根底にあります。
超越的な存在は心の底まで全てを見通す?
縁起強迫では平穏な日常を守るための不安を自分で抱えることを避けて、超越的な存在に肩代わりしてもらっているような状態です。一種の依存です。となると、超越的な存在のご機嫌が気になります。日常を自分で守らないので、日常のコントロール感や効力感を失います。このことで、逆に不安が増しているのです。
また、超越的な存在は様々な不思議な力を持つものです。心の中まで見通しているように感じられます。「その存在が喜ばないことは考えてはいけない」と思うようになり、万が一考えてしまったときはその考えを打ち消すために必死になります。こうなると、行動が制限されるだけでなく心の底までその存在に支配されているかのようになってしまいます。
超越的な不思議な力を信じること、それによって安心を得ることは良いことです。一つの文化であり、価値でもあります。しかし、その力に安全を丸投げしてしまうと、縁起強迫に陥って逆に不安の中で日々を過ごすことになります。縁起は程々にして、「自分にできること」を合理的に考えることも重要です。
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強迫性障害の脳心理科学的な真実、そして正しい付き合い方が気になるあなた、続きはぜひ本書で御覧ください。
さて、最後までお読みいただきありがとうございました。
次回は数字にまつわる強迫をご紹介します。
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杉山 崇(脳心理科学者・神奈川大学教授)
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