新聞180万部減の衝撃…それでも新聞は残る理由

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

一般社団法人 日本新聞協会が発表した「新聞の発行部数と世帯数の推移」によると、2000年からの過去21年間で紙の新聞の部数は、38%も減少していたことが明らかになった。

年々発行部数が減少し続ける新聞に対して、SNS上では「新聞は時代遅れ。無料で速いネットにはかなわない」「偏重報道ばかりしていたツケ」などと批判をよく見る。だが、頻繁にみるこうした批判は本当に正しいのだろうか?

Toru Kimura/iStock

「新聞はネットより遅い」は正しい批判か?

新聞を批判する人の多くは「ネットはリアルタイム情報を無料で、新聞は昨日の情報を有料で提供する」と速度の問題を指摘する。

一部においてこの指摘は確かに正しい。たとえば、2022年1月10日の夕方、米10年国債が1.803へ急騰したとTwitterで速報ツイートが流れてきた。「これを受けて株価は落ちるのでは?」と思った。その数時間後、ナスダックやダウ、ビットコインは続落した。長期金利”だけ”が原因で落ちたとは言わない。だが、その影響度合いは小さくないのもまた事実だろう。ネットでは極めてリアルタイムに近い速さで伝達されたこの情報が、新聞で掲載されるのは翌日となるだろう。この事例について言えば、一分一秒を争う短期トレーダーの立場では両メディアの伝達速度は決定的な差になる。

だが、この問題は多くの人にとっては当てはまらない。リアルタイムで速報を得られなければ、たちまち困る立場の人はかなり限定的だ。一般的な会社員の人がウイルスの感染者の増減や、株価や金利の情報をリアルタイムで知っておくことの重要性は大きくないからだ。

もとい、ネットの速報には誤りや恣意的な嘘も少なくない。ネットの速報を見てパニックになる人に対して、「落ち着いて。まずは新聞社からの報道を待とう」と、冷静さを呼びかける反応はよく見る光景だ。そしてこの態度こそ「新聞社に対する情報精度への信頼性」があることの現れである。

情報とは速いだけではなく、精度が伴って初めて価値が備わる性質がある。その精度について、多くの人は未だにNikkeiやNew York Timesなど新聞社のお墨付きを求める。ビジネス記事も書き手がどのソースを参照し、エビデンスとして出しているかはしっかり求められる。故に「新聞はとにかく遅いからダメ」という速さに終止するだけの指摘は、情報の精度という重要な要素が抜け落ちていると感じるのだ。

また、「新聞」というのは紙媒体を指すべきではなく「新聞社」という報道機関のことである。最近では各新聞社も紙媒体だけでなく、ネットでも記事を出している。「新聞=紙の新聞」という認識は誤りだ。

「新聞は偏重報道をする」という指摘

また、新聞への問題指摘として「偏重報道をする」というものがある。確かに各新聞社で強めのテイストが出ていると感じることは少なくない。社によっては過剰さを感じる瞬間もゼロではないだろう。

実体験を出して言えば、筆者が過去に「極端な糖質制限ダイエットは危険」という新聞社の調査を引用した上で意見を書いたことがある。その際、読者の一人から「あなたが参照している新聞社は農業に偏重している。彼らは米を否定するような報道をしない。つまりバイアスがかかっている」と批判を受けたことがある。確かに同社から「お米はからだに悪い」「日本の食料自給率を下げるべき」といった記事を積極的に出すことはないだろう。だが真に注目するべきは、その新聞社のポジションではなく情報の精度の方である。情報が正しいという前提なら、取っているポジションそのものは大きな問題にならないはずだ。

もしもこれが偏重と言うなら、ネットでも事情はあまり変わらないのではないだろうか。「海外留学で英語力を高めましょう」と主張する留学エージェントのSNSのアカウントは、留学や英語の必要性に否定的な事は言わない。また、マッサージ店のSNSアカウントは、マッサージ効果に否定的な記事を見たとしてもあえて取り上げることはせず、肯定的な情報を積極的に取り上げて「マッサージにはこんなに良い効果がある。ぜひうちに来てね」と投稿する。完全にフラットな情報を出し続けるメディアなど、世の中にどれだけあるのだろうか?

世の中のあらゆる情報は多少なりとも、バイアスがかかっている。重要なのはそこを踏まえつつ「この情報をどう解釈するべきか?」という個人の情報に対する精査力を高めることだろう。「バイアスがかかっているから信用できない」という指摘は、その指摘をする人物にこそ「この情報ソースには、誤りか偏りがあるはずだ」という強固なバイアスがかかっている可能性があると言えよう。

個人的には、「ネットと新聞のどちらが優れているか?」と白黒の結論を出す必要はないと思っている。速報性の必要な時はネット、情報の精度が重要な局面では新聞社ソースを参照するなど、使い分けることが肝要だろう。

筆者がビジネス雑誌に固めの記事を書く時は、政府が発表したデータの他、日本の新聞社の他、New York Timesなどの発表データを引用することも少なくない。エビデンスへの信頼性が低ければ「こいつは妄想で記事を書いている」と読み手が信用してくれないことを理解しているからだ。

紙の新聞の部数は減少を続けていている現代でも、新聞社への信頼性がなくなってしまったのではないのだ。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。