2022年に気になること:ウクライナ情勢が他人事でない理由

今日は1月11日。2022年が始まって11日目。昨年もいろいろありましたが、今年はそれ以上に激動の一年となる予感がしています。

昨年は、世界的に言えば、何と言っても、米中対立が深まる中で、バイデン政権が誕生し、「台湾海峡の平和と安定」が大きな焦点となり、欧州諸国も含め「自由で開かれたインド太平洋」アジェンダが拡大進化したこと(欧州主要国の日本寄港・共同訓練、QUADの進化の他、AUKUSの発足もありました)、また、コロナ禍が2年目を継続するもワクチン接種が格段に進み経口治療薬が実現しつつあることから「ウィズコロナ2.0」とも言うべき社会経済活動を再活性化する行動様式が始まったこと、デルタ株が世界的に蔓延する中で日本が東京オリパラを成功させたことが特筆されます。

我が日本では、菅総理退陣による総裁選、岸田新政権誕生、続く衆議院選挙と政治が問われた年でもありました。衆議院選挙では、自民党は絶対安定多数を獲得しました。例外は私の選挙区大阪で全衆議院議員が小選挙区では落選という残念な結果でした。衆議院選挙と間のあかないうちに本年は参議院選挙があります。安定した政治を継続できるかどうか日本の政策遂行に大きな影響が出る選挙です。厳しい情勢だと思いますが、自分が挑戦する選挙であり全力で頑張ってまいります。

さて、今年は激動の年になる予感と冒頭書きましたが、それは、北京オリンピック、秋の中国共産党大会、米国の中間選挙とその他、韓国、フランスの大統領選挙、豪州の選挙と主要国のリーダーシップに関わる行事が目白押しだからです。これは各国の対中姿勢に変化があるかどうかに関わり、米中対立の構図に影響をもたらす可能性があるからです。

とはいえ、私が目下最も懸念しているのは、昨年末に緊迫化したウクライナ情勢です。これは、単にロシア対ウクライナ、ロシア対米国・NATOということではなく、仮にロシア軍がウクライナに侵攻することとなれば、事態を抑止できなかったとして、米国のリーダーシップにアフガンの比でない悪影響が出ることは必至であり、中国が台湾や尖閣諸島に対してどのような行動に出るか大いに影響することとなるでしょう。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領 Wikipediaより

習近平国家主席は、二正面作戦ができないと踏んで、台湾に対する圧力強化の好機と見るかもしれません。北京オリンピックや共産党大会を控えるなど、タイミング的には今一と思われるので軍事行動の挙に出るとは思いませんが、米国のリーダーシップの退潮と見て、台湾・尖閣に対する圧迫を益々強めるかもしれません。

また、バイデン政権自身は、世界での「不要な」軍事リソース分散を避け対中戦略に集中したいとの一貫した政策があるものと思いますが、ウクライナ情勢が軍事的に深刻化すれば、結果的には米国の政治・軍事リソースを割かざるを得なくなり、結果的に、東アジアに対する政治・軍事リソースが減ってしまうことに繋がります。

その意味で最初から軍事オプションがないと示唆してしまったことは戦術としては不適切であったと思います。もちろん、ウクライナがNATO加盟国でない以上、米国にもNATO諸国にもウクライナに対する防衛義務はないので当然といえば当然ですが、ちょっと戦術的にはどうなのかなと。

アフガンの時も「撤退する」と早く明確に言い過ぎたことでタリバンのカブール陥落が誰もが予想できない(もしかしたらタリバン自身も)くらい早く進んでしまい、関係者の脱出がままならなくなったことも想起されますが、外交のプロが揃っているはずのバイデン政権にしては、最近の行動は「雑」な気がしています。

昨日行われた初回の米ロ協議は対立点は埋まらないままであったものの、今後も協議を継続することは合意され、また、ロシア側は「ウクライナ侵攻の懸念をする必要はない」旨述べたとのこと。ロシア軍が引いていないので問題が解決したわけではないが、協議が上手くいくことを祈るばかりです。主張が真っ向から対立しているので難しい交渉です。

ロシアは、ウクライナのNATO加盟を認めない(NATOのさらなる東方拡大を行わない)こと、ウクライナにおいて軍事支活動を行わないことを求めていますが、米・NATO側は、加盟申請はウクライナの自由意志に基づくことと加盟如何を決定するのはNATOである、ロシアが侵攻すればウクライナに軍事支援を増強すると言っています。

しかし、どういう表現を使おうと、今回の焦点はウクライナを「緩衝地帯」としてどう認めるか(認めないか)ということです。

台湾とウクライナは似たところがあります。ウクライナについても台湾についても米国に国際法的な意味において防衛義務はありません。しかし、実際上は、ウクライナと台湾、いずれについても、その意思に反してロシアや中国に占領されることを容認することはできない、それは自由と民主主義を標榜する米国のリーダーシップに対する回復困難な深刻なダメージになるという意味において、「守る」必要があるという点において同じくだと感じます。

他方、ロシアにとっては、ウクライナは旧ソ連邦の中核国であり、すでにバルト3国、チェコ、ポーランド、ハンガリーまでNATOの東方拡大が進展し、これ以上は絶対に許すまじということです。ロシアからすれば自国領土周辺までNATOが軍を展開する可能性があることは自国の安全保障上の脅威と感じているのでしょう。

ロシアはあれほど大きな領土を持っていても常に外国は敵対勢力であり、常に領土を拡張するか緩衝地帯を置くかして自国を守らなければならないという強迫観念にも似た被害者意識をもってきました。大国間の間には緩衝地帯があった方が関係が安定するとい観点からいえば、ロシアの主張は理解できないわけでもありません。「厳しく」対立する国益を持つ国や国家群の間では「勢力圏」の境界につきどこかで折り合いをつける必要があるものです。

しかし、ウクライナからすれば、自国安全保障について一国ではロシアと対抗できるはずもなく、NATO加盟したいと望むのもわかります。

他方、実際問題としては、NATO諸国からすれば、加盟を認めれば直ちにロシアとことを構えなければならなくなるウクライナの加盟については前向きにはなれないところでしょう。

鍵は、ロシアの懸念とウクライナの安全保障についてどう折り合いをつけるかということであり、それがミンスク合意だったのですが、これも破綻してしまいました。台湾は、「一つの中国」について、米国が否定をしないという曖昧戦術でこれまで乗り切ってきました。台湾の意思に反した中国の台湾奪取は決して容認しない、そのために台湾に対する軍事支援も行う、しかし、同時に台湾の「独立」も積極的に認めないということです。

ウクライナについても、ウクライナの安全保障(ロシアから突然侵攻されないことの担保)とロシアの懸念(ウクライナがNATO加盟はしないこと)とのどこかに均衡点を見つけない限り、ロシアが軍事侵攻を思いとどまることは難しい。お互いの主張の原則に傷をつけない形で、米ロ協議で上手く折り合いを見つけられるかどうか。

欧州情勢は、日本にとっては、おそらく、欧州諸国が東アジア情勢について感じると同様の距離間があるものではありますが、上記のとおり、米国のリーダーシップに直結するものです。それでは日本に何ができるかと言われれば、ウクライナ情勢そのものについて日本ができることはほぼありません。

日本ができること、すべきことは、自身の防衛力強化と外交です。自身で自国の領土を守る気概と能力を持つ。同盟国たる米国をインド太平洋地域において補完する役割を果たすこと、但し、対米追従ではなく、例えば東南アジア諸国から得ている日本自身の信頼感を生かした外交を活用すること、そうしたことに一層注力すべきだと考えます。


編集部より:このブログは参議院議員、松川るい氏(自由民主党、大阪選挙区)の公式ブログ 2021年1月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、「松川るいが行く!」をご覧ください。