コロナ抗議デモと極右過激派の関係

欧州で目下、新型コロナウイルスの変異株オミクロンが猛威を振るい、新規感染者は急増し、重症化リスクは低いが多くの人々が感染することで社会のインフラが機能しない状況に追い込まれている。その一方、欧州各地でコロナ規制、ワクチン接種の義務化に抗議するデモが行われ、一部暴動化する傾向がみられる。その中で極右過激派はコロナ抗議デモの主導権を握ることで影響力を広めてきている。

極右過激派に警告を発するナンシー・フェイザー内相(SPD公式サイトから)

ドイツでは年末から年始にかけ各地でコロナ規制抗議デモが行われてきた。年末には、マンハイム、プフォルツハイムを含むいくつかの都市で集会が開かれた。シュヴァインフルトでのデモで暴動が発生した後、12月末に4人の参加者が有罪判決を受けた。ドイツ東部のザクセン州、ザクセンアンハルト州、テューリンゲン州、メクレンブルクフォアポンメルン州、ブランデンブルク州でも抗議行動が行われた。例えば、ザクセン州では過去1年半でコロナ関連の抗議デモは2800回を超えたという。

ブランデンブルク州のシュチュブゲン内相(キリスト教民主同盟=CDU)はメディアとのインタビューの中で、「極右過激派はコロナ規制抗議デモを自身の政治目的のために利用している」と述べている。

ナンシー・フェイザー内相(社会民主党=SPD)は連邦議会での演説の中で、「コロナ規制抗議デモに参加することは要注意だ。極右過激派グループが抗議デモを利用している。極右過激主義は民主主義の最大の脅威だ。過激派をストップし、彼らのネットワークを壊滅し、武装化を阻止しなければならない」と主張している。同相は、「復活祭までに極右過激派対策への行動計画を作成する」という。

フェイザー内相は、極右過激派のメッセンジャーサービス、チャットアプリの「テレグラム」の閉鎖については、「ドイツの法を守らない場合、最後の手段として閉鎖しなければならない。同チャットは極右過激派に利用されている。他のニュースサービスとは異なり、陰謀説や人種差別的なコンテンツを含んでいる」と説明している。

ドイツでは昨年12月15日、ワクチン接種反対派の活動家がザクセン州のミヒャエル・クレッチマー首相暗殺計画を練っていたことが発覚するなど、コロナ規制に抗議するグループの過激化が観察されてきた。特に、ドイツでワクチン接種の義務化が大きな問題となってきたことを受け、反対派の活動は過激化している。コロナ抗議デモと極右過激主義が結束するリスクが高まってきている。

フェイザー内相は13日、ドイチェランドフンク(DLF)とのインタビューで、「極右過激派の目標はコロナ対策に反対することではなく、民主主義に反対することにある。コロナ規制に反対する抗議デモ参加者は、極右過激派のヘイトスピーチには気を付けなければならない」と語っている。

ドイツでは目下、ワクチン接種の義務化について激しいやり取りが続けられている。ショルツ首相は昨年12月の新年演説の中で、オミクロン変異株の感染との戦いで国民に連帯を求め、「オミクロン変異体の急速な蔓延を阻止するためにワクチン接種を加速することが大切だ」と指摘、「私たちは(感染力のある)ウイルスより素早く動かなければならない」と強調。今月12日の首相就任初の議会答弁の中では、「ワクチン接種は自分のためだけではなく、社会全体のために行うものだ」と主張し、国民にワクチ接種の義務化を訴えている。ショルツ首相は義務化を来月には施行したい意向と言われるが、与党連立政権内でも反対意見が聞かれるなど、コンセンサスはまだない。

欧州で先駆けてワクチン接種の義務化を進めるオーストリアでは、ワクチン接種の義務化に反対する国民のターゲットは政府、保健省だけでなく新聞社やメディア関係者、コロナ患者を治療する医療関係者、看護師までも攻撃されるケースが増えてきた。そのため、警察は病院周辺を警備するなどの対策を実行している。この傾向はオーストリアだけではなく、ドイツでも見られ出した。

極右過激派は2015年、中東・北アフリカから大量の難民・移民が欧州に流入してきた時、反移民政策、外国人排斥を運動の中心に掲げて政治活動を展開し、極右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)は大躍進した。オーストリアでも極右政党「自由党」が選挙で得票率を増やし、一時は政権入りまでした。2020年に入り、新型コロナウイルスの感染が欧州を席巻し出すと、移民・難民政策ではなく、政府のコロナ規制に反対する運動に拡大し、長期化するコロナ規制とワクチン接種の義務化で不満が溜まる国民に連携の手を差し伸べながら、反体制運動を展開してきている。その結果、社会は一層分裂を深めてきているわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年1月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。