リモワしやすいIT業界ほど東京一極集中する理由

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

もっともリモートワークしやすいイメージのあるIT業界…。そんな我々の印象とは裏腹に、IT職ほど東京一極集中が進んでいる事実が下記ツイートのインフォグラフィックスで明らかになった。

https://twitter.com/ShinagawaJP/status/1481596979453231106

このツイートの画像は総務省統計局の2015年のデータが元になっている。そのため、直近2021年時点のものではない。だが、概ね現在も同じような推移と推測される。

なぜIT職ほど東京一極集中が進んでしまうのか?について論考してみたい。

kazuma seki/iStock

仕事はデジタルでも人はアナログ

理由の1つ目に「仕事はデジタルでも、人間はアナログ」という絶対的事実があげられるだろう。

コンピューターは人間が命令を下すことで、同じ結果を出すことができる。同じプロセッサ構成で、同じ命令を出せば、理論上は同じ結果になる。だが人はそうではない。同じ目的を示されても、人によってプロセスも成果物も大きく異なる。筆者は日常的に仕事をする上でクラウドソーシングで仕事を外注している立場だが、こちらの要望を先回りして深く汲み取り、期待値以上の納品をしてくれる人もいるし、その逆の人もいる。

デジタルの職務においても、それを携わる人間はアナログである。人はコンピューターと異なり、大きなパフォーマンスを出力するために人との関わりを排除することはできない。それは優秀な人ほどその傾向が強いと思っている。

そして個人的肌感覚で言えば、学業で良い成績を出したり、ビジネスで大きな成功を収めるような人物ほど「競争的で負けず嫌い」という印象がある。東大医学部に合格した人物が受験理由に「日本一難しい学部だったから」と答えていたり、難関大模試は上位争いとなってライバルを出し抜くために頑張って勉強したというエピソードはよく聞く話しだ。競争で潰れる人もいれば伸びる人もいるが、優秀な人ほど後者の傾向があると感じる。

つまり、優秀な人ほど人から受ける影響度の大きさを理解しており、優れた人の集まる環境を目指すのではないだろうか。

優秀な才能はオフラインで集積する

優秀な人ほど、競争的で負けず嫌い、この前提条件で展開するなら、優れた才能や能力は地理的に自然に集積することになる。

事実、文京区は教育環境が整っている地理的特性があるし、港区在住者の平均年収は1000万円と平均値を大きく超えているのは偶然というより必然的色彩が強い。また、この傾向は日本のみならず、アメリカのシリコンバレーにはIT企業やIT職の従事者が集積しているし、ボストンには有名大学やそこに通う優秀な学生が集積する。そして「この地域はこの才能が集積する」という評判が次の才能を呼び込む循環が出来上がる。

筆者が大学卒業後、就職のためにすぐさま上京したのは「英語力を活かしたキャリアのスタート地点なら東京一択」という「東京=グローバルビジネスのメッカ」という地理的特性に惹かれたからだ(実データとして、東京は外資系の76%以上が集積している)。

これはルネサンス時代から変わらぬ真理の一つと言えるが、人はお互いに影響を与え合う機能性を有する。優秀な人ほど、感覚的ににそれを知っているからか、自分を高めるためにも優秀な人が集まる場所を目指すのだろう。本稿のテーマにあげるIT職におけるエンジニア業などは、スキルがすべてであり、IT企業の力とはすなわちそこで働くビジネスマンのITスキルに直結している。

優秀な才能はまずオフラインで集積し、オンラインで拡張していく順序をたどるのではないだろうか。

リモートワークでは人間関係をリモートできない

そしてどれだけ技術的にリモートワークが広がっても、人間の相互関係性から生まれるシナジー効果や受け取る影響まではリモートできない。

筆者は東京で働いていた頃、仕事のいろはは優秀なビジネスマンの背中で学んだという感覚を持っている。当時、経理部の上司は非常に強い責任感とリーダーシップを持っており、筆者の仕事論のかなりの部分は彼から学んだ。といっても手取り足取り教わったというより、彼がデータの誤りがないかを最後の最後まで真剣にチェックする徹底的な仕事っぷりや、事前にヒューマンエラーを想定して自動的にエラーチェックが働くようエクセルの数式を入れるような姿から教わった。

また、飲み会の場で「決算を携わる立場というのは、最後が一番肝心。それまでどれだけ一生懸命仕事をしていても、最後に手を抜いて決算書に誤りが一つでも出たら自分たちの仕事のすべてを否定的に見られる。それ故に一番注力するべきは最後のエラーチェックだ」と持論を聞かせてもらった。このことは今でも強く印象に残っており、起業して経理の仕事を離れた今でも、彼の仕事論のスピリッツは息づいていると思っている。

オンライン上でテキストや動画、音声でやり取りをしても言語化できない才能のカケラは、依然としてリアルでしか拾い上げることはできない部分が残る。やはり、リモートワークでは対面コミュニケーションの深さは永遠にかなわない。それ故にスキルや才能で勝負するIT職ほど東京一極集中するのは、むしろ自然な結果と言えるだろう。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。