日常系アニメは今や世界的コンテンツ

谷本 真由美

TVアニメ「進撃の巨人」The Final Season Part 2
オフィシャルページより

2022年1月9日に「進撃の巨人The Final Season Part 2」の放送が始まったが、実は海外でも「Attack on Titan final season part 2」として放送開始である。ところがその放送初日、アニメ配信サイトのCrunchyrollはアクセスが集中して落ちてしまいネットで大騒ぎになった。

私が2021年12月に出版した「世界のニュースを日本人は何も知らない3 – 大変革期にやりたい放題の海外事情」という本でも紹介したように、世界で最も人気のあるコンテンツの上位を占めるのは日本のものばかりだが、アニメの世界では日本が世界を支配している状態なのだ。

そして「進撃の巨人The Final Season Part 2」の放送日が各メディアのトップニュースになるほどの話題なのである。

しかし日本のアニメは各国で人気な割には、ケーブルテレビや地上波の放送では放送されているものは非常に数が少なく、子供用チャンネルやアニメチャンネルのごく一部でやっているに過ぎないので、短期滞在の日本人は目にする機会がなく、日本アニメの人気を知らない。

いまや世界中の子供も大人も配信サイトで日本のアニメを見ているのである。 当初は非合法なものが多かったのだが、現在ではサブスクのサービスが大人気になっている。

日本の方はサブスクサービスと言うと Netflix や Amazon プライムを想像されるかもしれないが、アニメの世界ではそうではない。

最近人気なのが2006年に立ち上がったCrunchyrollである。もともとアメリカで始まったこのサイトは、最初は海賊版のアニメを流していたのにファンが字幕を付けたりしていたのだが、日本のテレビ局と提携し、コンテンツを合法に提供してもらうことに成功する。

2012年には有料会員が10万人を突破し、2021年は有料会員は400万人を突破、登録者数は1億人を超えている。

クランチロール、有料会員数が400万人を突破 登録者数は1億人に到達 | gamebiz
クランチロールは米国時間2月2日、同社の有料会員数が400万人、登録者数が1億人をそれぞれ1月に突破したと発表した。クランチロールはまた、同日付で、英俳優のイドリス・エルバさん(Idris Elba、Green Door Pictures)と妻でモデルのサブリナ・エルバさん(Sabrina Elba、Pink Towe...

このサイトが 非常に面白いのは、日本語のオリジナルの音声で字幕が付いている作品が大半で、220カ国以上にいるユーザーの多くが日本語でアニメを見ることを希望していることがよくわかる。

無料会員としてアニメを大量に見ることも可能だが、有料会員になるとアップルテレビなどの アプリからテレビの大画面で見ることが簡単になる。広告をのぞくことが可能になり、さらに作品によってはなんと日本で放送された1時間後にアニメを見ることが可能になる。

とにかく早く日本の最新のアニメを見たいと言うファンの大変な熱意を感じるではないか。

そして同サイトで人気の作品も非常に興味深い。

忍者や伝統的な歴史などの非常に日本ぽい作品、ジャンプ系の作品がランキングのトップを占めている。

  • 鬼滅の刃
  • 進撃の巨人
  • ワンピース
  • 呪術廻戦
  • ブラッククローバー
  • ナルト
  • ドラゴンボール
  • 名探偵コナン
  • 半妖の夜叉姫
  • フルーツバスケット
  • ママレード・ボーイ
  • 干物妹うまるちゃん
  • 大家さんは思春期
  • おじさんとマシュマロ
  • 俺だけ入れる隠しダンジョン
  • 異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術Ω
  • オッドタクシー
  • 精霊幻想記
  • チート薬師のスローライフ〜異世界に作ろうドラッグストア〜

さらにアニメに詳しくない方は驚かれるかもしれないが、いわゆる日常系の深夜枠のゆるいアニメが大変な人気なのだ。

中に登場するキャラクターの多くは女子校生でゆるゆるとした日常が展開されていく。

これを見ているのが別にキモヲタとか大きなお友達だけというわけではなく、 なんと海外の小学生や中学生女子も楽しんでいるのである。

日本の萌系や日常アニメが「性差別的だ!」と大騒ぎしているフェミストの方々はこの実態をどう思うのか?海外では批判されるどころかもはや主流のコンテンツなのであり、女子にも大人気なのだ。

日本の中学や高校の学校の中が登場する作品も多く、海外の人々はそういった日本の学校の風景の中で展開される非常に緩くてふわりとしたお話をとても楽しんでいる。

現実の世界では彼らが住む社会というのは、切った張ったの世界で、格差が凄まじく、 自己主張を求められる非常に厳しい社会である。

愛想笑いやゆるい人間関係というのは許されず常に緊張を強いられる。 そんな彼らが家で見ているのは日本の日常系のアニメなのだ。

そしてこのような作品の中では北米や欧州で盛んになっているポリコレや多様性などは無視されており、女子高生の考え方やキャラも非常に日本的で、北米や欧州のいわゆる「強い女性」というキャラとは正反対である。

かといって彼女たちが性的に搾取されているとか、差別されているわけではなく、 戦車道を追求する乙女や、スーパーカブに乗って全国を旅する「独立した女性」として描かれている。

その態度はマッチョであるわけでもなく、友達と仲良く料理をしたり、日々のことをおしゃべりするごく普通の緩い女子高生なのだ。

こういったキャラが登場する作品を全世界の一億人もの人々が求めているというのは実はすごいことではないだろうか。世界は癒しと萌えを求めているのだ。

その一方でアメコミやハリウッドの映画の人気はどんどん凋落しているわけだ。

つまり多様性やポリコレが追求するようなキャラやお話というのは、一般の人々ははっきり興味がないのだろう。