オミクロンより、恐ロシア

潮 匡人

1月21日から、1都12県でも「まん延防止等重点措置」が始まる。先日、当欄で懸念したとおり、昨年同様の愚行を繰り返す羽目に陥った。

他方、新規感染者が連日10万人前後にのぼるイギリスでは、公共施設でのマスク着用義務をはじめ、多くの規制が撤廃される。同じ島国、同じ立憲君主国でありながら、オミクロン株への対応は大きく異なる。

日本政府や自治体に言いたいことは山ほどあるが、これまでの経緯を振り返れば、もはや何を書いても虚しい。ここでは以下、オミクロン株より、はるかに深刻なリスクについて述べよう。

1月18日、米ホワイトハウスのサキ報道官は記者会見で「極めて危険な状況だ。ロシアによるウクライナへの攻撃はいつ起きてもおかしくない」と危機感をあらわにした。ウクライナに駐在するロシア外交官の家族を退避させる準備をロシアが進めていたとの情報も明らかにした。

この日、アメリカのブリンケン国務長官とロシアのラブロフ外相は電話で会談。予定では、21日も、スイスのジュネーブで会談する。ウクライナ情勢は重大な局面を迎えている。

1月18日、ロシアとベラルーシの国防省が、2月10日~20日の間、ベラルーシ国内で合同軍事演習を実施すると公表した。演習開始前日(2月9日)までに、ロシアのSu(スホイ)-35戦闘機や地対空ミサイル(システム)S-400などの最新兵器が展開するという。

ロシア・ウクライナ国境のロシア側には、すでに10万人規模のロシア軍が集結している。ロシア軍の地上常備兵力の4分の1を超える規模であり、とうてい無視できない。さらに合同演習が始まれば、ウクライナへの軍事的圧力は極度に高まる。演習は単なる名目に過ぎず、実際には軍事侵攻に至るおそれもある。

事実、米「ワシントン・ポスト」紙は先月、ロシアが17万5000人(100個大隊戦闘団)の兵力でウクライナへの軍事侵攻を計画していると報じた。具体的な侵攻時期は、軍事作戦に適した冬季(今年2月ないし今月)だと同紙はみる。

いや、それは西側の陰謀論だ、ロシアも国連常任理事国であり、世界が注目する「平和の祭典」(北京五輪)に配慮する云々の「識者コメント」も日本国内から聞こえてくるが、そうした空想的平和主義は、以下の歴史的事実が打ち砕く。

2008年8月8日、中国北京で「平和の祭典」の開会式が行われたその日、ロシアは、グルジア(旧ソ連ジョージア)が進攻した南オセチア自治州に軍事介入した。ちなみにロシアはこのとき、「最初の攻撃はジョージア側からだ」、「ロシア派住民をジェノサイドから保護するために軍を投入した」と主張した。

きっと、ウクライナでも同様の口実が使われるのであろう。実際、サキ報道官(前出)は今月14日の会見で、ロシアがウクライナ侵攻の口実を得るための「偽旗作戦」を実施すべく、ウクライナ東部に工作員を配置していると述べた。「偽旗作戦」とは、敵に成りすまして自軍を攻撃し、被害を受けたと見せかける偽装作戦を指す。サキ報道官は、2014年にロシアがウクライナ南部のクリミア半島を一方的に併合した際も同様の工作が行われたと指摘。「ロシアは1月中旬から2月中旬に軍事侵攻に踏み切る可能性があり、その数週間前から工作活動を開始する計画を持っている」とも警告した。

同様に、サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)も13日の記者会見で「ロシアが侵攻の口実をでっちあげる選択肢の下準備をしている」、「我々は2014年にもこの作戦を目撃した。ロシアは再び同じ作戦を用意している」と述べた。米国防総省のカービー報道官も14日の会見で、「ロシアによる工作情報は非常に信頼できるものだ」と強調した。

以上の「偽旗作戦」によるクリミア併合もまた、ソチ冬季オリンピックの閉会直後、すなわちソチ冬季パラリンピックの開催中に強行された。国際法に加えて、ロシアが提案し国連総会で採択された「五輪休戦決議」も踏みにじる、五輪開催国ロシア自身による暴挙である。

欧米諸国は直ちにロシア外交官を追放、厳しい経済制裁を加えたが、このときも(北方領土問題を抱えた)日本は「西側の連合戦線」の「最も弱い輪」となり、ロシアが「西側の制裁を打破する際におのずと最もよい突破口となった」。あえて以上は、天安門事件当時、中国外相を務めた銭其シンの『回顧録』から引いた。日本の外交はいつも、このざまだ。念のため付記すれば、クリミアで味をしめたロシアは翌2015年、シリアにも軍事介入した。

果たして、ウクライナ侵攻はあるか。その答えは早晩、明らかになろう。

北京五輪は再び、血まみれとなるかもしれない。少なくとも、「平和の祭典」などと浮かれている場合ではあるまい。