英国海軍及び英国海軍省の名をもって、両艦の勇敢なる行為と作業とに、深き謝意を表する。 英国海軍大臣 ウインストン・チャーチル
本書は、著者がこの第二特務艦隊を率いた佐藤皐蔵(こうぞう)提督の孫から手紙をもらうところから始まる。地中海の守護神とまで呼ばれた第二特務艦隊の軌跡を追いながら、日英秘史を現代に蘇らせる壮大な実験である。
ロシアへの対抗策として1902年に日英同盟が締結され、この同盟関係が日露戦争で日本が勝利する重要な要因であったことは広く知られている。ワシントン海軍軍縮会議で調印された四カ国条約成立に伴って1923年に失効するまで21年間継続したが、不思議なことに第一次大戦中に日英同盟が果たした役割については殆ど知られていない。
事は同盟国である英国の強い要請を受けたことによる。潜水艦が第一次世界大戦から本格的に運用され、無差別攻撃で地中海を行き交う船舶関係者や乗客が恐怖に陥る中、日本政府は連合国の船舶護衛任務のため参戦を決意する。そして、はるか彼方の地中海まで艦隊派遣することになったのである。
地中海に派遣された第二特務艦隊は英領のマルタ島を根拠地にし、ドイツ帝国およびオーストリア=ハンガリー帝国の潜水艦Uボートによる攻撃からの船舶護衛を行い、攻撃で被害を受けた乗員の救助も行った。そして多くの戦果を上げ各国から賞賛されたにも関わらず、その歴史は次世代の日本人へと殆ど語り継がれることなく今日に至っているのである。
この日英秘史を、今を生きる日本人に知ってもらうことが著者の執筆する動機である。そして、その著者に強い影響を与えたのが、生前に著者と親交のあった故C・W・ニコル氏であった。
英国の海軍一家に生まれたニコル氏は実際にマルタの日本兵墓地を訪れ、慰霊している。「武士道と騎士道は相通ずるものがある。日本人はもう一度自分自身と向き合うべきだと思う」と、ニコル氏は著者によく話していたという。
本書はまさに、ニコル氏の遺志を継いだ著者の案内による、地中海に残された祖先の足跡を辿る旅であるとも言えるだろう。
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