数多い国の中からわざわざ日本を選んで学びに来てくれる人たち、それが留学生です。日本のファンでありサポーターといって良い存在です。
わざわざ日本に来て一定期間滞在して学ぼうという若者がいることは日本人にとってありがたいことです。だいたい日本という国は英語があまり通じなさそうで、(理系はともかく)文系では世界をリードするような分野は非常に少なく、経済大国ですらなくなってきているような国なのですから。
それでも来たいと言ってくれる留学生。それを拒絶するのは愚かなことです。昨今はハーバード大学とかスタンフォード大学とかで学ぶといった話題が時々マスコミを賑わせますが、もしも米国政府が日本人留学生の入国を拒否したらそもそも留学などできないわけです。それを日本の学校について日本政府がやっているのです。
外国人留学生の入国を拒否している国は世界で日本しかありません。そのため日本に来るのをあきらめて韓国その他の国に急遽行き先を変更する学生が結構いるようです。学生にとってどの国で学ぶかの選択は重要で、例えば音楽専攻であれば、ドイツで学ぶか、フランスか、イタリアか・・・という選択によって、その後の音楽人生が大きく変わってしまうほどです。
私は明治大学経営大学院(MBAコース)でビジネス・コミュニケーションというクラスを担当しています。使用言語は英語で、色んな国の留学生が履修してくれます。ちょうど今週、秋学期の授業が終わったのですが、6人の受講生の内訳は、東京に住んでいる留学生が二人(中国とアフリカ)、リモート参加が二人(ヨーロッパ)、そして日本人二人でした。東京に住んでいる留学生は一年以上前に日本に来たので入国が可能でした。
ヨーロッパの学生は本来なら日本に来られるはずだったのが、来られなくなって大変がっかりしています。授業は日本時間の夜に行なうので、現地ではちょうど昼の時間帯になるのは不幸中の幸いです。しかし、本来だったら日本で授業を受けているはずの学生からすれば何ともやりきれない気持ちです。
一方で既に日本に来ている留学生は、来日できたのは良いもののコロナ禍で授業がオンラインだったりするし、学生同士の交流が困難なので、留学から得られる体験の価値は半減しているというのが実態です。
若くて、健康で、ワクチンや検査等の必要な措置を行なっている留学生の来日を拒否する理由は何でしょうか? 彼らが入ってくると、死亡者・重症者が増える、といった因果関係があるのでしょうか?
そもそもオミクロン株は既に日本国内で十分に市中感染しているわけですから、鎖国政策に効果があるのか大いに疑問です。「ずぶぬれになっても傘をさしている」みたいなバカな話になったりしてはいないでしょうか。
さらに言うと、日本人だったら海外から戻って来られるわけです。サッカー・ワールドカップのサウジアラビア選手も入国が許されると報じられています。サッカー選手は「高い公共性のため」にOKだそうです。留学生の来日は公共性が低いと判断されたのでしょうか? いずれにしても、科学でなく政治的判断で人を選別するやり方は納得できません。
先日のダボスの経済フォーラムで、岸田首相は司会のシュワブWEF会長から水際対策の緩和を求められました。しかし彼の返答は「国民からも厳格な水際対策を求める声が強く、ご理解いただきたい」というものでした(ロイターの報道による)。
これを「さすが国民の声を良く聞く総理大臣だ」などと思ってはいけないでしょう。国民はマスコミやネットから感染症についての情報を得ています、そしてマスコミは政治家の発言を報道します。結局、岸田首相が言っていることは「政府の言う事を聞く国民の声を聞く」という自己撞着に陥っているのではないでしょうか?
政府の役割は「国民の命と安全を守る」、そして「国民が豊かで健康で自由で文化的な生活ができるようにする」ということです。マスコミは何かというと健康と経済が基本だと言いますが、それにおとらず重要なのが文化的な生活の質を維持することだと思います。
健康と経済は生命維持に最低限必要なものですが、三つめの文化とは「人間を人間たらしめるもの」「人生に意味を与えるもの」です。どうぞ文化的活動の重要性を今一度認識していただきたい。
折しも東欧ではきな臭い動きが起きています。第二次大戦以来の世界的な戦争が起きる可能性さえあります。戦争を避けるには軍備ももちろん大事ですが、それに劣らず重要なのが社会文化の交流です。
しかし日本は留学生を始めとする海外との人的交流をシャットアウトすることで、その道を自ら閉ざしてしまっています。東洋の島国でもともと対外的コミュニケーションが得意でない日本が、窓口を閉ざしたら外交下手がますます悪化するばかりでしょう。
早急に留学生の入国を許可するよう心より望みます。
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小田切 尚登
音楽スペース「シンフォニー」主催。外資系投資銀行四社で働いたあと、ピアノ好きが高じて全7室の音楽家向けのスペースを経営。ライターとしても活動中。